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活躍できるシニアSEになるには、年齢差別(エイジズム)という自分を取り巻く環境を理解する必要がある。そのうえで、歳を取っても衰えない能力を意識して向上させる。加齢を研究する「ジェロントロジー」を活用した人材コンサルティングを手掛ける筆者が、シニア世代のキャリア開発を解説する。

 「30歳代前半までで、上流工程ができる人をお願いします」「40歳以下で、○○システムの業務知識がある人を希望します」「現場のリーダーが35歳なので、年齢がそれ以下の人をお願いします」。あるエンジニア派遣業の営業担当者は、顧客からこんな要望をよく受けるという。

 かつて話題に上った「エンジニア35歳定年説」はすっかり死語になった印象を受けるが、ある年齢よりも下のエンジニアが好まれる傾向は依然として残っている。一方で「生涯現役」を目指すエンジニアが増えている。かつては管理や補助に回っていた45歳以上はもちろん、60歳を過ぎてからもIT現場で働くことを望む人が増加している。

 ただ、45歳以上のシニア世代のエンジニア全てが生き生きと働ける状況にはなっていない。シニア世代のエンジニアが自分自身の生き方や強みを見つめ直すとともに、企業の経営者や上司、同僚も考え方を変えていく必要がある。

 産業ジェロントロジー(老年学)の知見を基に、45歳以上のシニア世代がエンジニアとして輝き続けるにはどうすべきかを解説する。

シニアSEに仕事が来ない
日本企業に潜むエイジズム

 まずはシニアSEを取り巻く環境を見て、シニアSEが活躍の場を得られない理由を明らかにしよう。

 冒頭で紹介したのは、年齢によって派遣で受け入れる人を選別するという事例だ。これは「エイジズム」と呼ばれる、年齢による差別の表れである。エイジズムは広義には「全ての年齢における、年齢による偏見や差別」、狭義には「高齢者に対する年齢差別」を意味する。

 日本は海外に比べ、狭義の意味のエイジズムが多く見受けられる。内閣府が2014年に発表した「高齢期に向けた『備え』に関する調査」では、高齢期に抱くイメージで最も多かったのは「心身が衰え、健康面での不安が大きい」(74.8%)がトップ。ポジティブなイメージで最も多かった「経験や知恵が豊かである」(34.3%)の2倍以上となった。国民の意識レベルで、老いにネガティブなイメージを持っているのだ。

 エイジズムには大きく、偏見によるものと制度的なものの2種類がある(図1)。「全ての高齢者は若者よりも仕事が遅い」などとステレオタイプの見方をするのは、偏見によるエイジズムの例だ。こうした偏見を持っている人は、急いで議事録を作らなければいけないときに「おじさんはやらなくていいよ。若手にやってもらった方が早いから」などと、つい口に出してしまいがちだ。

図1●企業にはびこるエイジズム
図1●企業にはびこるエイジズム
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 制度的なエイジズムは定年退職や、中途採用に年齢制限を設けることを指す。今でこそ求人票に年齢制限を設けるのは禁止されているが、以前は「正社員システムエンジニア募集。40歳までの方」「経験不問。ただし35歳までに限る」などと書くことが認められていた。これは性差別や人種差別と似た、年齢による差別に当たる。

能力ではなく年齢を見るIT企業

 エイジズムはあなたの職場にもあるかもしれない。今はなくても、エイジズムに陥りやすい環境かもしれない。表1のチェックリストで確認してみよう。ここに挙げた項目は全てエイジズムの表れだ。

表1●職場のエイジズムチェックリスト
表1●職場のエイジズムチェックリスト
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 米国では定年制度を高齢者差別とみなし、1986年に年齢による雇用差別禁止法を徹底した。日本も2007年10月に雇用対策法を改正し、労働者の募集と採用で事業主による年齢制限を禁止した。2015年には高齢者雇用安定法を改正した。

 しかし、シニア世代を取り巻く状況はまだ厳しいようだ。あるエンジニア派遣会社の経営者によると、営業担当者が顧客を訪問したところ、あるエンジニアの学歴・職歴欄を見て「ぜひお願いします」と喜んでいた。ところが、下の生年月日欄に目が行くと「え?50歳を過ぎていますね…」とトーンダウンし、結局その人を採用しなかった。

 筆者が支援しているIT企業の団体では、複数の経営者が異口同音に「若手がシニアSEを使いづらいと漏らす」と打ち明ける。中でも多かったのは、プロジェクトマネジャーの下に年上のメンバーが付くケース。コミュニケーションが取りにくいと嫌がられるそうだ。ある経営者は「30歳そこそこの人にとって、60歳近いシニアは自分の父親のようなもの。『間違っています』とは言いにくい」と話した。

 要は技術ではなく、年齢が壁を作っているということだ。シニア世代のエンジニアに仕事の依頼が来ない大きな理由が、エイジズムにあるのは間違いない。