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 労働者派遣法(派遣法)が改正・施行されてから3年がたった。一般派遣社員が雇い止めされる2018年問題を発端とした訴訟が起きるなど、派遣法改正の影響は社会問題になりつつある。

 SEやプログラマといった多くのITエンジニアが派遣形態で働くシステム開発現場にも影響が出ている。最も大きな問題は、専門職の派遣を対象にしていた「特定労働者派遣事業(特定派遣)」が、2018年9月末に終了することだ。

 特定派遣は、派遣元に原則1年以上雇用されている労働者(常用雇用者)を派遣する制度を指す。専門性の高い26業務のみで可能な派遣形態で、ソフトウエア開発も26業務のうちの1つとなっている。

 特定派遣は事業者が役所に届け出をすれば派遣が可能になる。そのため、多くのITベンダーが顧客の要望に応じて特定派遣事業者となり、ITエンジニアをシステム開発現場に派遣していた。

 ところが2018年9月末で特定派遣事業は廃止になってしまう。これまで特定派遣事業を行っていたITベンダーや、特定派遣を利用してITエンジニアを確保していたシステム開発現場は何らかの措置を講じる必要が出てくる。

特定派遣からの切り替え進む

 特定派遣を行っていたITベンダーの中には、ITエンジニアの派遣を継続するために準備を進めている企業も多い。その1社が中堅ITベンダーのクレスコだ。

 同社は2017年4月、特定派遣事業から労働者派遣事業(一般派遣)に切り替えた。準備期間は半年程度。「売上高に占める特定派遣事業の割合は低いが、経過措置の終了間際は混乱すると思い、早めに準備を進めた」と同社の米﨑道明 広報IR推進室長は話す。

 届け出のみだった特定派遣とは異なり、一般派遣事業は許可制になるので事業者の負担が増える。資本金などの資産要件や、事業所の面積、また派遣事業者が講習を受けることなども義務付けられている。

 ITエンジニアの派遣事業を継続しようとする大手から中堅のITベンダーは、クレスコのように一般派遣事業への切り替えを進めている。しかしITエンジニアが数人しか所属しない小規模の特定派遣事業者は、「切り替えをあきらめて、派遣以外の事業を模索したり、廃業したりするケースも多い」と、小規模ITベンダー向けのM&A(合併・買収)サービスを手がけるコンサルティング会社の担当者は話す。

 M&Aサービスは、資産や面積要件を1社では満たすことができない小規模な特定派遣事業者をマッチングし、合併などの方法で派遣事業の継続を目指すものだ。しかしこのコンサルティング会社の担当者は、「サービスを提供しているものの成立はなかなか難しい」と打ち明ける。派遣事業の継続が難しいと判断した小規模な特定派遣事業者は、派遣事業をやめて準委任契約や請負契約でのシステム開発に移行したり、廃業したりしているという。

 特定派遣廃止の経過措置の終了に加え、2018年問題の発端となった「派遣社員が同一の組織で3年以上勤務する場合には、派遣先企業への正社員への転換や派遣元が無期雇用社員として雇う」という雇用安定化に向けた施策も、開発現場に影響を与えている。「同一職場で長年、働いていたベテランのITエンジニアを交代せざるを得ないケースがある」と中堅ITベンダーの担当者は打ち明ける。

エンジニア不足加速の要因に

 では実際に、システム開発現場ではどのような問題が発生しているのか。ITエンジニアの人手不足の加速や、単価の上昇など派遣法改正の影響が見え始めている(図1)。

図1●派遣法の改正でシステム開発現場に起こる問題の例
図1●派遣法の改正でシステム開発現場に起こる問題の例
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 「急な人材調達が難しくなるのは間違いないだろう」と、受託開発を主に手がける売上高500億円の中堅ITベンダーの調達担当者は話す。現状でも、大型案件や働き方改革などの影響で人手不足が続いている。さらに2018年10月以降、特定派遣事業者の廃業や派遣単価の高騰などで、「ITエンジニア不足が深刻化しそうだ」(同)。

 現在、ITエンジニアの多くが特定派遣でプロジェクトに参加している。準委任契約や請負契約に切り替えると、派遣先の企業が直接指示できなくなるため、指揮命令系統や業務フローの見直しが発生する。

 こうした手間を避けるために継続的に派遣のITエンジニアを確保しようにも、制度の過渡期で一般派遣に切り替わっている事業者に所属するITエンジニアは決して多くはない。「急な人材調達に対応できない可能性が出てくるのではないか」と前出の調達担当者は懸念する。

 制度の切り替えから時間がたち、一般派遣のITエンジニアが増えれば、エンジニア不足の不安がなくなる可能性はある。しかし今度は、単価の上昇という問題が発生しそうだ。

 一般派遣では現在、無期契約となる派遣社員が増えつつある。派遣法改正の柱の1つに、雇用の安定に向けた義務付けがあるためだ。その結果、「派遣全般に契約単価の上昇傾向が見受けられる」(NTTデータ)。NTTデータの場合、「現場への影響は顧客や業務内容によって異なる」とするが、今後はエンジニアの単価上昇が、開発現場の調達やプロジェクト費用に影響を及ぼしそうだ。

 無期雇用の派遣社員になった場合、「交通費や福利厚生費、長期的な教育などが必要になるため、契約単価は上がる」とITエンジニアの派遣を手がけるパソナテックの錦戸新吾 執行役員 HRソリューション事業部長は話す。同社では所属する派遣社員が無期雇用に転換した場合、必ず契約単価のアップを顧客に交渉しているという。