2018年9月に改正派遣法の猶予期間が切れる。法改正によって派遣SEの処遇はどう変わるのか。日経SYSTEMSでは、一般派遣会社の担当者のA氏、多くのユーザー企業を支援してきたコンサルタントのB氏、大手ITベンダ-でSEの調達を担当した経験があるC氏、中堅中小ソフト会社の社長であるD氏の4人に集まってもらい覆面座談会を開催した。
(聞き手は、池上 俊也=日経 xTECH副編集長)

派遣法の改正で、派遣期間が3年を超えるとユーザー企業やITベンダーといった派遣先は直接雇用の義務(労働契約申込みみなし制度の適用)を負う可能性があります。これを避けるために、派遣契約を打ち切る雇い止めはどの程度広がっているのでしょうか。

A氏 当社(一般派遣会社)が派遣するエンジニアには、2018年3月ぐらいから雇い止めが広がってきました。昨年まではほとんど聞かなかったのですが、今年は既に20人以上が雇い止めをされています。中には「あなたは雇い止めです」と、派遣先から直接雇い止めという言葉を使って宣告された人もいます。
状況は深刻なようですね。ユーザー企業の人員調達に詳しいBさんはいかがですか。
B氏 これまで数十のユーザー企業を見てきましたが、確かに雇い止めは増えている印象です。主な対象は、ヘルプデスクやパソコンのキッティングといった作業の担当者です。ユーザー企業の立場から言えば、誰でもできる作業なので雇い止めしても困らないのでしょう。だから期限の3年になる少し前に雇い止めにされてしまう。
派遣会社が派遣社員を正社員などの無期雇用として受け入れれば、3年を過ぎても同じ職場で働けます。無期雇用になるSEは、増えているのでしょうか。
A氏 無期雇用になったSEは十数人いますが、これは派遣先次第ですね。無期雇用にすると、派遣会社はSEに対して交通費を支給したり、待機期間でも給与を支払ったりしなければなりません。コストの負担は当然大きくなり、派遣先がそれまでよりも高い単価で受け入れてくれなければ無期派遣にはなかなか切り替えられません。現実にはスキルが高く、10~15年後も働き口がある人に限られます。
派遣先にはどれぐらいコストの上乗せを求めるのですか。

A氏 派遣しているエンジニアのスキルにもよりますが、基本は3割アップの単価を要求します。もちろん派遣先との交渉で下げることもありますが、それでも1割アップは欲しいところです。
B氏 単に派遣会社の取り分が増えて、派遣SEには給与として還元されない。そんなことはないのでしょうか。
A氏 そこは大丈夫です。無期雇用に切り替わったタイミングで、派遣SEの給与は上げています。ただし、ずっと上げていけるわけではありません。(派遣先との単価もあるので)いずれは上限に達します。
単価の上乗せには一切応じない
それでは、ITベンダーでの調達に詳しいCさんにお聞きします。派遣先は単価の上乗せには応じるのですか。

C氏 残念ながらそれはできません。以前、当社の調達部門からこんな通達が出ました。それは「無期雇用への切り替えによるコスト上昇の交渉には一切応じないこと」というものです。
派遣会社の狙いとは完全にずれていますね。
C氏 そうですね。この指示が出されたのはだいぶ前です。しかも、今年6月にアップデートされました。改正派遣法で決められた3年の上限を迎える2018年9月を前に、現場のマネジャーに徹底させるためでしょう。
A氏 確かに派遣先から「単価の上乗せは絶対に無理」と言われることが結構あります。特に大手ITベンダーに多い。派遣会社もコスト負担には限界があるので、これでは派遣SEを無期雇用にするのは難しくなります。
ならば、派遣先による直接雇用はいかがでしょう。派遣元での無期雇用が難しいとなると、派遣SEを救うには直接雇用しか手段がありません。
C氏 調達側の立場からすると、直接雇用はさらにハードルが高くなります。現場のマネジャーには採用の権限はないので、人事部門に申請を出すぐらいしかできません。しかも当社の場合、申請を出すには労働組合の承諾が必要です。現実にはまず直接雇用にはなりません。こうした取り決めも、先ほどと同様に調達部門からの指示です。
派遣SEは結局、雇い止めに遭う運命なのですね。派遣社員の雇用安定化を図るという政府の思惑とは大きくかけはなれています。
B氏 ただ、中には週3日勤務でいい、3年おきに転職したい、というSEもいます。そうした人にはよいのかもしれません。ワークライフバランスを考えて、派遣SEという選択肢は十分あると思いますよ。最近、このような勤務形態を望む人が増えていることも事実です。