仕事が家族関係に影を落としたり、プライベートの予定が仕事の足かせになったりする。家庭の情報を職場のプロジェクトで共有しておくことで、問題が起こったときにカバーしやすくなる。問題が発生したときに仕事を他のメンバーに引き継げるように、平時から準備しておきたい。
プロジェクトの進行を阻害する要因とその対策について考える本連載。最終回となる今回は、「家族とプライベート」について取り上げます。
現実には多くの人が、仕事とプライベートとの両立に悩んでいるはずです。家族や友人、趣味の活動の仲間たち。人生の大きなウエートを占める存在ですが、場合によっては、「仕事」が家族関係に影を落としたり、逆にプライベートの予定が仕事の足かせになったり、といったことが起こります。
家族は邪魔モノではありませんが、仕事とバッティングして困ることがあるのは事実。まずは、どんなことが起こるか見てみましょう。
ミッション1 病気の子供を救え
「いつになったら帰ってくるのよ!」
「はいはい。その通りです」
プロジェクトマネジャー(PM)の吉田隼人の生返事を聞いて、プロジェクトリーダー(PL)の園田とSEの倉本は顔を見合わせた。顧客にはいつも丁寧に応対する吉田にしては、どうもおかしい。
顧客のPMも何かおかしいと思った様子だ。
「とにかくこの点はきちんと対策を検討して、次回報告して下さい。吉田さん、よろしくお願いしますよ」
「承知しました」
上の空で答えた吉田は、周囲の反応に全く気づいていない。左腕の時計が気になって仕方がないし、ポケットのスマホがいつ振動し始めるか、気が気ではない。
「それでは、ご報告は以上です」
決定事項の確認も忘れて吉田は会議を締めくくった。
あきれ顔の顧客と同僚を尻目に、そそくさと荷物をまとめて立ち上がる。廊下に出るとすぐに、彼はスマートフォンを取り出して、画面をタップした。
「もしもし」
待ち構えていた、というように、妻の優奈が応じる。
「もしもし、今どこ?」
「客先を出るところだ。すぐ帰る。雄大の具合は?」
優奈が次の言葉を口にするまで、微妙な間があった。
「まだ客先?あなた、6時までには帰るって…」
「すまん。会議が長引いて。熱は下がらないのか?」
優奈が、突然声を荒らげた。
「下がらないから、夜間診療所に連れて行くって言ってるんじゃない!いつになったら帰って来るのよ!」
「とにかく、大至急で帰る。たぶん、7時半には…」
優奈は、返事をせずに電話を切った。
スマートフォンをポケットに戻しながら、吉田は口に出さずに1人ごちた。
おれだって息子のことは心配だし、雄大の看病のために優奈が勤めを休んでくれたことには感謝している。でも、いくらなんでも会議をすっぽかして帰ったり、中座したりするわけにもいかないじゃないか。
釈然としない気分のまま吉田は、出口へと急いだ。
仕事と家庭がバッティングする要因
「仕事は待ってくれない」とよく言われます。しかし考えてみれば、家族をはじめとするプライベートの事情だって、「待ってくれない」のです。だから、必然的にバッティングが生じます(図1)。
重要な仕事を任せられるようになる時期と、結婚したり子供が生まれたりして家庭内でも責任が増してくるタイミングとは近接しています。社内で役職が上がる頃には、子供の就活や結婚、親の介護の問題など、家庭環境の中で発生する問題もシビアかつ待ったなしになってくるものです。
言うまでもなく、妻は家庭を守り、夫は家計を支えるといった合理的根拠のない旧来の役割分担は意味をなさなくなってきています。
吉田家のように夫婦ともに仕事を持つ家庭は例外ではありませんし、仮に夫婦の一方が仕事に就いていないとしても、家族としての責任は誰か1人が負担するものではなく、全員で分担する必要があります。