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サービス企画でユーザーの課題を想定する

 構想フェーズの4項目のうち、構想の根幹を成す「サービス企画」の具体的な作業プロセスを説明します。まず、基本的には「対象ユーザー」と「課題」を定義します(図3)。誰のどんな課題を解決するためのサービスなのかを決めるのです。さらに、その課題の解決策を考えます。この解決策がサービス案になります。

図3●サービス企画の作業プロセス
図3●サービス企画の作業プロセス
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 とはいえ、プロジェクトによってはその前に保有技術や製品の整理が必要です。例えばAI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)を使ったサービスの場合、企業が既に保有している技術や製品を使うことが前提になっているケースがあります。この場合、サービスで解決すべき課題の種類は、これらの技術や製品に関係する課題に絞られます。

 例えば「顔認識系AIを持つ会社が、その技術を使ってサービスを作る」という起点に立つとしたら、顔認識に関連するユーザー行動やその課題に限定して検討する必要があります。具体的には、店内のカメラに映ったユーザーを認識することで解決できる課題のようなものが考えられます。

 自社の保有技術がない場合には、この作業プロセスはスキップして、対象ユーザーや課題の定義から始めます。

良質な「インプット」を集める

 対象ユーザーやユーザーの課題を特定する際のポイントは、インプットとなる情報を集めることです。DXプロジェクトの担当者が普段から感じている生活やビジネスの課題がヒントになります。社内の有識者にヒアリングなどなどをして得た情報をインプットとすることもあります。

 B2C(消費者向け)のサービスを開発する場合など、社内でインプットを集められないときもあります。その際は、仮説発見のための調査を実施してもよいでしょう。観察によって人々の行動スタイルを把握する「エスノグラフィー調査」などが代表的です。

 B2B(企業向け)の場合は、社内の顧客窓口部署や顧客企業へのヒアリングする手段もあります。良質なインプットなくして、具体的なユーザーや課題はイメージできません。インプットを集める作業はとても重要です。

「対象ユーザー」と「課題」を定義する

 インプットを得たら、次は「対象ユーザー」と「そのユーザーの課題」を定義します。B2Cのサービスでは、ユーザーの性別や年代、利用している商品、どんなシーンでどんな不満やニーズを持っているのかを整理します。B2Bの場合は、担当している業務の種類、抱えている不満やニーズを整理します。

 以降は、架空の企業のプロジェクトを題材に、具体的に対象ユーザーや課題を考えてみましょう。登場する企業はパン屋チェーンを全国展開するJQベーカリー社です。同社は、B2Cの新規事業を始めようとしています。

 JQベーカリー社のプロジェクトメンバーは、まず図4のA案のように、対象ユーザーと課題を定義しました。対象ユーザーは「パンが好きで朝食においしいパンを食べたいと考えている、都市部のビジネスパーソン」です。この人の課題は「パン屋さんのパンを買いたいが、パン屋が開いている時間帯に帰宅できない。買いだめして冷凍する時間もない。できれば、健康やカロリーにも配慮したい」です。

図4●JQベーカリー社が定義した対象ユーザーと課題
図4●JQベーカリー社が定義した対象ユーザーと課題
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 A案の内容を社内で議論していると、新規にB案も浮かび上がってきました。B案の対象ユーザーは「自分のランチ用にパンを購入する20~30代の女性オフィスワーカー」です。課題は「カロリーや栄養素(鉄分やビタミンなど)を総合的に考慮して、組み合わせを決めたいが、計算が面倒だったり、栄養素がわからなかったりする」です。

 A案は店舗に来られないユーザーを想定しているので、パンをユーザーに配送することを前提としたサービスになりそうです。一方、B案は店舗に来るユーザーがターゲットなので、店内で提供するサービスにするのが自然です。

 A、B両案の課題を解決するとしたら、明らかに違うサービスを2つ用意する必要があります。構想フェーズにおける作業も2倍になります。

 人的リソースや予算が十分にある場合は2つのサービスを開発できるかもしれません。しかし、DXプロジェクトでは基幹系システム開発プロジェクトよりも検討要素が多いため、あれもこれも手を出すと、検討が中途半端になり、失敗するリスクが高まる可能性があります。極力、検討対象とするユーザーや課題を絞ることをお勧めします。

 JQベーカリー社では議論を重ねた結果、A案を採用してプロジェクトを進めていくことにしました。