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ユーザー受け入れテストで検証が想定通り進まず、検証当事者の不満が爆発した。障害などの直接的な原因よりも、説明や情報共有が不十分だったことが大きな問題だ。ステークホルダーごとの問題意識や立場の把握を、計画的に捉える必要がある。

Before
ユーザー検証になんて付き合っていられません

 柳川グループ長はゆったりと待合スペースのソファに腰を落とし、穏やかな笑みを浮かべていた。リラックスして、今にも鼻歌でも歌い出しそうに見える。

 大丈夫かしら、この人。状況を分かってるの?プロジェクトマネジャー(PM)の田村玲奈は心配になった。玲奈に言わせれば、状況は「ほぼクレ」なのだった。ほぼクレーム、ということだ。少なくとも、タイガーゲート・ビジネスサービスの友成事業部長はひどくおかんむりだ。グループ長と玲奈は、ある意味「お叱りを受けるため」に、ここにやってきているのだ。

 タイガーゲート・ビジネスサービスは、今回のプロジェクトの発注元ではない。施主は虎ノ門インターナショナルだ。タイガーゲート・ビジネスサービスは、虎ノ門インターナショナルの系列会社で、事務とコンピューターセンターのアウトソーサー。虎ノ門インターナショナルの人事給与事務と、総務系サポートデスクを一手に引き受けている。

 従って、先週始まったばかりのUAT(ユーザー受け入れテスト)では、検証の主役になってもらわなくては困るのだ。しかし、データ移行の段取りの悪さと障害の多発によって、想定していた検証が全く進まない状態だ。タイガーゲート・ビジネスサービスの友成事業部長はすっかりへそを曲げてしまっていた。

 責任は、玲奈たち開発チームと、虎ノ門インターナショナル情報システム部の双方にあった。システムエラーの多発については開発チームのプロダクト品質の問題。現行システムからのデータ移行の段取りについては虎ノ門インターナショナル情報システム部の不手際だった。加えて、テスト計画書の記載の粗さや、相談・問い合わせ窓口の不在などによって、友成事業部長にはもっともな不安がたまっている状況だ。

「どうも、お疲れさまです」

 聞き慣れた声に玲奈が顔を上げると、虎ノ門インターナショナル情報システム部の小松副長が立っていた。憔悴した顔で、髪も乱れている。無駄に落ち着き払った柳川グループ長とは対照的だ。

 小松は、柳川に向かって言った。

「契約当事者でもないタイガーゲート・ビジネスとの打ち合わせに立ち会っていただいて、申し訳ありません。非常事態なものですから」

 柳川は、あくまでもにこやかだ。

「いやいや、伝言ゲームになるより、立ち会わせていただいた方がありがたいですよ。こういうときは、相互に協力して前に進まなければいけませんから」

 小松はうなずきながら、手首の時計をのぞいた。

「では、そろそろ部屋に入りますか」

 小松の後ろに続いて、柳川と玲奈は会議室に入った。タイガーゲート・ビジネスサービスの友成事業部長と玉野井主任は、会議室で「獲物を待ち構えていた」という感じだった。小松が会議資料を出すのも待たず、玉野井主任が甲高い声で言った。

「小松さん、今朝の件はもう聞かれてますよね」

 資料を配布する小松の手が、止まった。

「と、おっしゃいますと?」

「今朝、打鍵を始めたところで、いきなりデータエラーでシステムダウンです。ご存じないんですか?」

 横から、友成事業部長も口を挟む。

「組織コードが1年前のものに戻ってたらしくてね。小松さん、ご承知の通り、UATでは、千葉、静岡、神奈川、栃木の各事業所から担当者に出張してもらっているんです。システムダウンで打鍵ができませんじゃ、申し訳が立たないんですよ」

 小松は、青ざめた顔で頭を下げた。

「申し訳ありません。本日は、テスト計画とこれまでの問題について、改めてご説明申し上げようと…」

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