進捗遅れが原因となって変更が多発し、変更がさらに進捗を阻害してしまう。その大きな原因の1つは、未決事項の取り扱いルールの曖昧さにある。用語の定義を含めてルールを明確化し、ユーザーと合意しておく。
Before
何のために外部設計書の承認を追い込んだのよ
プロジェクトマネジャー(PM)の田村玲奈は、WBS(Work Breakdown Structure)をにらんだ。立ち上がってまだ3週間の詳細設計フェーズだが、どうも進捗が思わしくない。里吉の担当領域も、新見の担当領域も、軒並み遅れている。
玲奈は、里吉に声をかけた。
「里吉さん、国内旅費精算の詳細設計って、どうなってるの? 先週上がる予定だったと思うけど」
里吉SEは、ちょっと困った顔で答えた。
「あれは作業を止めてます」
「止めてる?どうして?」
「タクシー利用時の承認経路が変更になりそうなんで」
「また?先週、宿泊の領収書台紙をいじったばかりよ」
「はあ。でも人事部の大隈主任が、業務マニュアルを作る際に、特例措置の反映が漏れていたと気づいたらしいんです」
「じゃあ、国内旅費精算は作業を止めて、代わりに別の設計書にかかってるのね?」
里吉は、首をかしげた。
「別のって、何のですか?」
玲奈は、いら立ちを押し殺して、言った。
「とりあえず国内旅費精算の設計はストップしたんでしょ。そういうときは、要員を遊ばせるわけにはいかないから、別の作業に振り向けるんじゃないの?」
里吉は、むきになったように否定した。
「いえ、遊びは出てません」
「何で?作業が止まったら、空きができるはずじゃない」
「でも、外部設計書の修正があるんで」
玲奈は顔をしかめた。
「外部設計書?国内旅費精算以外にも変更が入ってるの?外部設計工程は先月終わってるし、変更依頼書を見た覚えがないんだけど」
「仮払い請求と慶弔連絡の設計書も修正中です。あと海外出張申請も」
「で、変更依頼書は?」
「ええと、問い合わせ票はもらってます」
「問い合わせじゃないでしょう。変更依頼書がないと」
「それが、これは変更じゃなくて、未決事項の決定だって大隈主任が…」
玲奈は、部下の説明を遮った。
「ちょっと、言ってることがわかんない。何のために外部設計書の承認を追い込んだのよ」
「でも、あれはほら、工程を進めるための仮承認で」
玲奈は、唇をかんだ。確かにそうだった。外部設計書のレビューに当たって、顧客の大隈主任から、「全体の整合性をチェックしたいので、全ての設計書が出そろうまで承認はできない」と言われた。全部そろってからのレビューでは時間がかかりすぎて、詳細設計の開始が遅れてしまう。外部設計が確定したものから、順次設計に入るというのが、開発チームの方針だった。そこで、「個別の設計書をレビュー後に仮承認、全体整合性を確認後に改めて本承認をいただく」というやり方で進めることにしたのだ。仮承認が出たものは、後続工程を開始できるようにしたわけだ(図1)。
もともと、ある程度の標準化はできていたから、全体整合性チェックの結果で変更になる部分は多くはないという想定だった。だが、詳細設計が始まって3週間、いまだ本承認は終わっていない。大隈主任は、まだ本承認が確定していないことを盾に取って、「未決事項の決定」を乱発しているようだ。
「国内旅費精算の特例措置って、全体整合性チェックで確認するんじゃなくて、個別機能の問題よね?」玲奈の質問に、里吉は顔を曇らせた。
「確かにそうなんですけど、特例措置については、未決課題一覧に挙がってるんです」
「誰が課題一覧に挙げたの?」
「新見さんです」
そういうことか。玲奈は納得した。問題は、事実上の変更を押しつけてくる大隈主任だけではない。開発チームも、未決課題が残っていることを知りながら、外部設計工程を終わらせてしまったのだ。外部設計の中で課題を追い込むのではなく、課題を残したまま、詳細設計に突入することを容認した。
玲奈は、こめかみをもみながら、必死で考えを巡らせた。
変更や進捗遅れの問題が判明して、またしても受難の玲奈PMです(図2)。一体、どうしたらよいのでしょう。開発チームと一緒に考えてみましょう。