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顧客やパートナー企業とのコミュニケーションに悩む技術者は多い。うまくいかない理由は、コミュニケーションの本質を理解しないからだ。新連載では小説を織り交ぜながら、その本質と効果が上がる実践法を説く。

 「なんだかな~」とITベンダー、カセイシステムのプロジェクトリーダーである土屋洋介(33歳)は、ため息とともに独り言をつぶやいた。顧客であるスイセー社との取引はもう5年になる。決してスイセー社との関係は悪くないが、相手の言いなりに動く関係になっているところがある。

 土屋がため息を漏らしたのは、現行の開発プロジェクトでスイセー社から機能追加を求められ、追加工数の見積もりを提出したときのことを思い出したからだ。スイセー社の担当である木元課長から「予算は決まっている。当初から今後の拡張を想定して設計してほしいと伝えてあるので、大幅な見積もり金額増は認められない」と拒絶され、現行予算内での機能追加を言い含められそうになったのだ。

 その場は「検討課題」ということにして引き取り、カセイシステムのパートナー会社で一緒にプロジェクトに参加しているドセイシステムに打診してみた。すると、「機能追加するなら工数分の追加料金を頂かないと難しい」とのつれない反応。何とか顧客やパートナーを巻き込んで、プロジェクトをうまく進めたいと思うが、解決に向けてどこから手をつければよいか分からない。

 上司の水田課長からは「日頃から積極的に周囲とコミュニケーションを取れ」と言われている。しかし、日々の作業に忙殺されそれどころではない状況である。

 この物語の主人公の土屋君と同様、仕事をうまく進めたいと思う一方で、今の状況をどう変えていってよいか分からずに試行錯誤しているSEは多いのではないだろうか。なかなか変わらない現状に「ITの現場なんて、こんなもんだよ」と、いつの間にか流されている人も多いかもしれない。

 顧客やパートナーなど様々な立場の人が参画するITの現場では利害が対立することも多く、それが原因でプロジェクトが漂流するケースもある。そうした状況を改善するために、いろいろな方法論やツールが提供されている。だが、現場を変えていくのは「自分」しかいない。そう、読者の皆さんだ。そして現場を変えるためには、日々のコミュニケーションの取り方を工夫していくしか抜本的な解決策はないのである。

 ここからは土屋君という人物を通じて、仕事をうまく進めるための現場コミュニケーションについて、ポイントを6回にわたってお伝えすることにしたい。

 

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コミュニケーションって何だ?

 土屋はその日、久しぶりに会社の同期の飲み会に参加した。そこには同僚の金城恵もいた。彼女は社内で優秀なプロジェクトリーダーとして一目置かれている存在である。顧客の信頼を得ているだけでなく、パートナーからも「金城さんと一緒に仕事をしたい」と言われているぐらい、人の扱いがうまく、コミュニケーションの取り方にも長けている。

 土屋は前々からその秘密を知りたいと思っていた。ややアルコールが回り出したころ、土屋は金城の隣の席に陣取って、日頃感じている顧客やパートナーへの不満をぶつけてみた。

「金城さんは、顧客やパートナーとのコミュニケーションとかどうしているの?うちのプロジェクトはみんなワガママで…言うこと聞いてくれないんだ…」

「なかなか大変そうね。実を言うと、私もコミュニケーションはそんなに得意じゃないのよ」

「えっ!そうなんだ」と土屋は驚きの声を上げた。「水田課長からは『金城さんのように周りと積極的にコミュニケーションを取るように』といつも言われているんだよ。でも、話す時間はないし、第一、何を話してよいかもよく分からないんだよね。せいぜい雑談程度だけど、それもどうなんだかなあ」

「水田課長の言うコミュニケーションって、話すことじゃなくて、どう相手とシェアするかってことじゃない?」

「シェア?」。金城に言われたひと言が、アルコールの回った土屋の心に響いた。

解説
コミュニケーションとは会話することではない。シェアすることだ

 コミュニケーションの元々の意味は、ラテン語の「コミュニカーレ(共有すること、分かち合うこと)」と言われている。相手と共有し分かち合うこと、すなわち考えや意見をシェアすることこそが、コミュニケーションの本質だと言える。「話す」「会話する」という意味でのコミュニケーションも、シェアするための方法の1つでしかない。

 コミュニケーションが苦手という人は、「うまくしゃべれない」とか「どう話してよいか分からない」などと会話に対して苦手意識を持っている場合が多い。しかし、うまく会話ができなくても、コミュニケーションは可能なのだということをまず覚えておいてほしい。

 図1のチェックリストで、どれだけシェアする仕掛けや工夫を行っているかを確認できる。ぜひチェックしてほしい。チェックが3つ以下であれば、お互いの考えや意見はシェアされにくい、つまりコミュニケーションがスムーズではない状況にあると考えてよい。もちろん、このチェックリストの項目だけを実践すれば、コミュニケーションがうまくいくというわけではないが、1つの目安として使っていただきたい。

図1●現場コミュニケーションのチェックリスト
図1●現場コミュニケーションのチェックリスト
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