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解説
ウォンツだけではなく、ニーズの共有が必要だ

 ウォンツとニーズは図2のように氷山のような構造になっている。表面上に出てきているウォンツには数多くのニーズが隠れているのである。では、ウォンツだけでなくニーズも共有する必要があるのか。それは現場に「いつものパターンと違うこと」を生み出すためである。

図2●ウォンツとニーズの違いと関係
図2●ウォンツとニーズの違いと関係
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 現場でのコミュニケーションの目指すところは、日々の対話を通じて仕事の進め方や相手との関係に変化を起こしていくことにある。もしお互いウォンツだけしか共有してないとしたら、取り得る選択肢は限られてしまうだろう。「機能追加に伴う追加工数」というウォンツと「現行予算内での機能追加」というウォンツだけでは、考えられる解決策に限りがあるのは当然のことなのだ。

 実際、こうしたウォンツだけに焦点を当てて、調整するケースは多い。しかしそうすると、過去の経験に基づいた落としどころに落ち着かせるしかない。これが繰り返されることで「いつものパターン」が出来上がり、しまいにはお互いがいつものパターンで妥協する馴れ合いの関係となってしまうことさえある。

 だからこそ、お互いのニーズを共有する必要がある。図2のようにニーズがお互いに共有されると、いつものパターンとは違うことを検討できる。例えば土屋君が木下課長の「競合の動きに対抗したい」というニーズを知ったならば、開発中の機能の中で不急のものを後回しにするといった提案も考えられるはずだ。お互いのニーズが把握できると、考える上での材料が増えるため、いつものパターンと違うことを考えやすくなるというわけだ。

 ただしニーズの共有には困難がつきまとう。その理由は3つある。

 最初の理由は、ウォンツは1つでもニーズは複数あるということ。土屋君がスイセー社に見積もり工数の削減を依頼する理由=ニーズは、プロジェクトの利益確保ということ以外にも、要員確保の困難さ、メンバーの士気の維持など複数ある。しかも、どのニーズが大切なのかは相手に確認しないと分からない。

 2つめは、ニーズには相手に言いやすいニーズと言いにくいニーズがあるという理由だ。品質確保や人員確保の困難さは相手も納得しやすいだろうが、自社の利益確保やメンバーの士気低下の防止といったニーズは、自己都合のニーズとして捉えられやすく、伝えてしまうとかえって話をまとめる上で都合が悪い事態も生じる。

 そして3つめの理由は、自分でも気がつかないニーズがあるということである。例えば土屋君はメンバーに示しがつかないと発言しているが、そこには土屋君の「メンバーからよく思われたい」という隠れたニーズがありそうだ。

ニーズを共有するためには方法がある

 こうしたニーズを無理なく共有するためには、「見せる」「整える」「紡ぎ出す」というプロセスを意識する必要がある(図3)。

図3●現場コミュニケーションのための3つのプロセス
図3●現場コミュニケーションのための3つのプロセス
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 なぜなら、説明してきた通り、ニーズは勝手に共有されるものではないからである。むしろ共有するために意識的にコミュニケーションを工夫する必要がある。「見せる」「整える」「紡ぎ出す」ための具体的な手法については、次回以降に詳細を解説する予定なので、ここでは簡単に考え方をお伝えする。

 (1)まずは「見せる」で誘い込む

 まずは「見せる」。こちらのやっていること、考えていることに自然と関心を持ってもらい、お互いのニーズを共有しやすくするのだ。いきなりニーズを語る人は多くない。むしろ「教えてください」と言っても、なかなか本音を語ってはくれないだろう。だからこそ、自然に相手を巻き込む必要があるわけだ。

 そこで、まずやるべき事はコミュニケーションの内容やプロセスを共有することであり、その1つのやり方として「見せる」がある。「見せる化」や「見える化」とも呼ばれるが、見せることで相手や周りに興味関心を持ってもらい、コミュニケーションのプロセスに巻き込んでいく。

 何も特別なことではない。ホワイトボードや大型のノートなどを使い、思考のプロセスを目に見えるようにするのだ(図4)。見せることで自然に会話が起きるようにする。もちろん、相手のニーズを引き出しやすくするための工夫も必要になる。

図4●筆者たちのミーティングでの「見せる」の実例
図4●筆者たちのミーティングでの「見せる」の実例
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