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より良いユーザーエクスペリエンス(UX)に欠かせないのがサービスデザインだ。ユーザーの視点に立って検討を繰り返しながらサービスを作っていこう。サービスデザインに必須のワークショップ開催の勘どころも紹介する。

 本連載はこれまでUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)のデザインにフォーカスして、ITエンジニアのみなさんがUI/UXデザインに取り組むための方法を解説してきました。いずれの場合も具体的なサービスやシステムのスコープが大まかに決定している状態を前提としてきました。

 それでは具体的なサービスが検討できてないときはどのように考えればよいでしょうか。JJGの5階層モデルにおける戦略をどうするのか、どのような要件にするのかを、人間中心の視点でゼロから作り上げていく活動を「サービスデザイン」といいます(図1)。

図1●JJGの5階層モデルにおけるUI/UXデザインとサービスデザインの関係
図1●JJGの5階層モデルにおけるUI/UXデザインとサービスデザインの関係
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 そこで今回は新たな価値や新しいサービスを創造するサービスデザインへの取り組み方の概要、サービスデザインの肝である共創を促すワークショップの実践方法について解説します。

 サービスデザインという言葉を聞いたことがあるでしょうか。社会の流れやユーザーの要望などを踏まえて、提供するサービス、サービスを提供する対象の顧客、そしてサービスの提供方法を考える活動を指します。サービスの提供方法としてITが選択された場合、ITシステムの要件としてサービスを具体化することになります。

 2000年代に海外のデザインファームにおいて、サービスデザインの取り組みが活発化し、民間企業を中心に日本でも取り組みが広がってきています。さらに2017年5月に政府が発表した「デジタル・ガバメント推進方針」でも、「サービスデザイン思考を用いた利用者中心のサービス改革の実行」が政策に盛り込まれました。日本全体でサービスデザイン思考を取り入れてサービス開発をするプロジェクトが増加している状態にあるといえます。

 こうした状況はITエンジニアの業務にどのような影響を与えるでしょうか。サービスデザイン先進国の欧米では、サービスデザインプロジェクトにITエンジニアが頻繁に参画します。サービスの提供方法としてITが避けられない今日では、ITエンジニアの経験や知識がサービスデザインプロジェクトにおいても必須となっているからです。

 またITエンジニアがサービスデザインの初期段階から参加するということは、システムの戦略や要件を検討するフェーズに参画するということです。これによりシステムが必要とされている理由や対象ユーザーなどを明確に意識できるメリットがあります。

 サービスデザインの初期段階から参画することで、終盤の工程に該当する開発フェーズで何らかの問題が発生し、仕様の変更を求められた際にも、ユーザー視点に立って新たな要件を決定することができるでしょう。ITエンジニアのみなさんが、当初の目的通りのサービスを提供するための門番になるのです。

 また業務効率化を支援するシステムの構築が一段落した今日、単に業務効率化だけを目的としたシステムでは発注者もユーザーも満足できません。仮に満足できたとしても誰もが同じシステムを作れるため、厳しい価格競争を強いられることになります。システム構築を担うITベンダーは新たな価値を創出するために、どのようにITを活用し、どのようなサービスを創出するかを検討することが求められています。ITベンダーが生き残るためにもサービスの創出が欠かせないのです。ITエンジニアだけでなくITベンダーが会社として、サービスデザインの取り組みを意識する必要があると言えるでしょう。ITエンジニアにとってサービスデザインは非常に重要になってきているのです。

 以下ではサービスデザインの勘どころを解説していきます。