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要件定義を終えてからシステムを開発する――。こんな常識に縛られていたら、デジタル変革の速度は上がらない。何をすべきか。アクサ生命保険が実践したシステム開発の新手法にヒントがある。

 アクサ生命保険は2018年にシステムの開発プロセスを一新した。従来はウォーターフォール型で、要件定義フェーズで要件を全て固めないと設計に入れないという“手堅い”開発プロセスを社内標準としていた。「プロジェクトの開始からビジネス担当が実際のシステムを見て触るまで、半年や数年といった時間がかかっていた」(アクサ生命の南嶋千春AGILEセンターマネージャー)。

 昨今は営業担当がタブレット端末を持ち、それを駆使して顧客に保険の提案をするようになっている。こうしたデジタル変革のスピードを高めるため、社内標準の開発プロセスにアジャイル開発を追加した。「重要な機能を早期にリリースし、ビジネス担当が今までより早くシステムを見て触るようにした。ビジネス担当からのフィードバックを受け、スコープを変化させられる」(南嶋マネージャー)。

 例えば、2018年9月に完了した営業支援・電子契約システム「AXA Compass」の刷新では、アジャイル開発手法の1つである「スクラム」でプロジェクトを進めた。営業担当がタブレット端末からアクセスし、ライフプランニングや保険提案などに利用するシステムだ。

アクサ生命保険はアジャイル開発で営業支援・電子契約システムを刷新
アクサ生命保険はアジャイル開発で営業支援・電子契約システムを刷新
プロジェクトの初期に全ての要件を決めきるのではなく、やりたいことを挙げて優先順位を付けてシステム開発した
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 プロジェクトを開始する前に2つの課題が見えていた。1つめは新しい顧客層を対象とすること。手探りにならざるを得ない部分があり、プロジェクトの初期に細かい仕様を決めきるのが難しかった。2つめは営業の最前線で使うこと。使い勝手が重要で画面に細かい追加や変更が多発しそうだと予測できた。

 アジャイル開発を採用したことで要件の決め方が従来とは大きく変わった。プロジェクトを率いたITデリバリー本部セリングセールス&コンサルティングの天目紘太プロダクトマネージャーは「ビジネス担当には『要求はどんどん言って下さい。ただ、要求には優先順位を付け、下位の要求は落としていきます』と伝え、合意を取ってプロジェクトを開始した」と話す。

 プロジェクトの開始は2018年2月。最初の1カ月はビジネス担当がやりたいこと(エピック:粒度が大きい要求)を挙げ、優先度を付ける作業に専念した。そして、優先度が高いエピックから順に、開発に着手可能なレベルまで要求を詳細化した。詳細化した要求が、従来でいう要件の粒度に当たる。3月末に最初のエピックの詳細化が完了し、システムの開発に入った。要求の詳細化はプロジェクト終盤まで開発と並行して実施した。

 優先度を付けて要求をマネジメントしたことで、グラフの表示方法を変える、入力できる項目数を増やすといった追加の要求にも対応できた。天目プロダクトマネージャーは「ユーザーの満足度が高いシステムにできたと思う」と胸を張る。

AXA Compass刷新プロジェクトに携わったアクサ生命保険の天目紘太氏(左)、大谷歩氏(中)、河野博氏(右)
AXA Compass刷新プロジェクトに携わったアクサ生命保険の天目紘太氏(左)、大谷歩氏(中)、河野博氏(右)
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