新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)、東京大学の3者は、さまざまな熱機能材料の熱伝導率を高精度に予測・再現するソフト「Simulator for Phonon Transport in Arbitrary Nano-Structure」(P-TRANS)を開発した(ニュースリリース)。東大は、同ソフトをWebサイトで無償公開している。

 同ソフトは、東大が開発してきたモンテカルロ・レイトレーシング法と、構造作製ツールや可視化ツールなどのGUIを融合したもの(図1)。モンテカルロ・レイトレーシング法は、主要な熱キャリアである固体中の光子熱(フォノン)などの反射・透過・拡散の発生を乱数で確率的に取り扱い、計算を繰り返して近似解を得ることで事象を予測するシミュレーション技術。これまでに未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発に使われている。具体的には、ナノ多結晶粒界とナノ細孔を持つシリコン熱電変換材料の熱伝導率の予測や、その機構の理解に用いられているという。

図1:「P-TRANS」の概要
図1:「P-TRANS」の概要
(出所:NEDO)
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 研究現場での普及を目指して使いやすさを重視したという。GUI(Graphical User Interface)を使って数値を入力するなど簡単な操作で、任意の形状を持つナノ構造の熱伝導率を計算できる他、CADデータの取り込みや多結晶構造の自動作成といった機能を搭載し、任意の材料形状を容易に構築できる。

 熱伝導率の計算にかかる時間は、数秒から数分。マティーセン(Matthiessen)則などとの組み合わせにより、ボルツマン輸送方程式をそのまま解くよりも計算時間を縮められる。Matthiessen則は、格子の熱振動などによる散乱機構が複数個ある場合に、対象とする系の抵抗が個々の散乱機構による抵抗の和になるという経験則。ボルツマン輸送方程式はキャリアの輸送現象を表す方程式で、キャリアを粒子とし、キャリア間の衝突なども考慮しながら、その位置と速度に関する分布関数の時間変化を計算する。

 熱伝導率だけでなく、フォノン周波数に依存した熱伝導率スペクトルの計算も可能だ。60種類以上の材料に対応し、入力に必要な「第一原理計算」(計算対象となる物質の各構成元素と結晶構造のみを初期パラメーターとして、実験データや経験パラメーターを用いることなく行う理論計算方法)に基づく単結晶の物性をWebサイトで提供している。多結晶体や薄膜、多孔体、ナノワイヤなどについても、精度を検証済みだとする(図2)。

図2:「P-TRANS」の応用事例
図2:「P-TRANS」の応用事例
(出所:NEDO)
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