京セラ(京都市)と東京大学は、人工関節の長寿命化を図る表面処理技術「Aquala」(アクアラ)で「第8回 技術経営・イノベーション大賞」(主催:一般社団法人 科学技術と経済の会)の「科学技術と経済の会 会長賞」を受賞した(図1、京セラのニュースリリース)。同技術は、両者が2001年から共同開発し、実用化したもの。今回「ポリマーの親水性改質の発見から医工連携による研究開発、産業化への技術移転へとリニア型で進められたイノベーションの優れた事例」(科学技術と経済の会)と評価された。

図1:「第8回 技術経営・イノベーション大賞」の表彰式の様子(出所:京セラ)
図1:「第8回 技術経営・イノベーション大賞」の表彰式の様子(出所:京セラ)
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 アクアラは、人工股関節を構成する寛骨臼(かんこつきゅう)ライナーに用いる表面処理技術だ(図2、3)。人工股関節の課題とされる“緩み”や周囲の過剰な免疫反応を抑制して、耐用年数を伸ばせるという。同技術を採用した人工股関節は、2011年4月28日に厚生労働省から製造販売承認を取得し、2019年12月末までに国内で6万件を超える手術に使われている。

図2:人工股関節置換手術の仕組み(出所:京セラ)
図2:人工股関節置換手術の仕組み(出所:京セラ)
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図3:「Aquala」でコーティングした寛骨臼ライナーのイメージ(出所:京セラ)
図3:「Aquala」でコーティングした寛骨臼ライナーのイメージ(出所:京セラ)
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 股関節は、大腿骨の上端にある球状の骨頭が骨盤の寛骨臼にはまり込んだ形になっており、通常は関節部分が表面軟骨で覆われている。しかし、軟骨がすり減ると骨同士がぶつかって強い痛みが生じたり、歩きにくくなったりする。その対策の1つが人工股関節への置き換えだ。しかし、従来の人工股関節には、長期間の使用に伴って関節部分が摩耗し、緩みが生じるため、再置換手術が必要という課題があった。

 緩みを防ぐには、摩耗しにくい金属材料を骨頭と寛骨臼の両方に用いるなどの手段が取られるものの、他の軟部組織や骨に障害が起きる恐れもある。そのため、摩耗粉を減らすと同時に生体の反応を抑える技術が求められていたという。

 アクアラは、生体親和性ポリマー(MPCポリマー)で関節面に厚さが数nmの層を形成し、関節軟骨表面の構造や機能を模倣する。MPCポリマーは生体の細胞膜と同じリン脂質構造を持ち、親水性と生体親和性に優れるので、体内に入っても血液凝固などの体内反応を起こさない。この特徴から従来、人工心臓やコンタクトレンズなどで活用されている。京セラによると、京セラと東京大学はこのMPCポリマーを世界で初めて人工関節に応用した。

 MPCポリマー層によってライナーは疎水性から親水性に変わり、体液中で薄い水の膜を張る。これによって摩擦面同士が水を挟んで離れるので、摩擦抵抗が減って関節の動きがスムーズになる。未処理のライナーに比べて、摩擦は90%減少。1日5500歩×15年の歩行を想定した実験では、摩耗粉は99%減った。生体の70年分以上に相当する試験後も、安定して摩耗耐久性を維持できるとの結果を得たという。

 京セラによると、国内では年間に約10万件の人工股関節手術が実施されている。超高齢化に伴ってその数は年率10%で増えており、今後10年間で2倍になる見込みだ。アクアラによって長寿命化を図った人工股関節を採用すれば、変形性股関節症などの疾患や骨折で痛みを抱える患者の負担を減らせる可能性がある。