科学技術振興機構(JST)は、樹脂同士を精密に貼り合わせられるレーザー溶着技術を開発したと発表した(ニュースリリース)。熱源にレーザーを用いて溶着の精度を高めるとともに、放熱体(ヒートシンク)を併用して接合面だけを溶融させるのに成功した。研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の企業主導フェーズ NExTEP-Aタイプにおける開発課題「ヒートシンク式レーザ溶着による電子デバイス精密接合装置」として、清和光学製作所(東京・中野)が受託。国士舘大学理工学部准教授(開発当時は電気通信大学産学官連携センター特任准教授)の佐藤公俊氏らの研究成果を元に、2016年9~2019年12月の期間で実用化開発を進めていた。
新技術では、レーザーの出射口の先端に光を透過するヒートシンクを設置する。このヒートシンクを溶着部材の表面に接触させながら、レーザーをヒートシンク越しに部材へ入れる。これにより、部材表面の温度上昇を抑えながら、接合部(部材同士の界面)を溶融できる(図1)。レーザーの吸収率が高く、溶けすぎて溶着が難しいとされていたオレフィン系樹脂同士やフッ素系樹脂同士の重ね合わせ溶着も可能だとしている。
一般に2枚の樹脂部材の接合部を溶かして貼り合わせる技術には、熱溶着や超音波溶着などがある(図2)。だが、従来の技術は微細な部分を高精度に溶着させづらい上、過熱による表面の熱損傷やガス化が問題となる部材では条件設定が難しく、特に小型部品への適用が困難だった。
熱源にレーザーを用いれば、大きなエネルギーを小さなスポットに絞り込める。しかし、二酸化炭素(CO2)レーザーのような波長の長い赤外線などを使うと、部材表面にレーザーが当たる場所で急激に温度が上昇して瞬間的に溶融・ガス化に至り、つまり部材が大きく損傷してしまう。半導体レーザーは波長が短く、一般的な樹脂では透過率が高いため発熱を抑えられるものの、2部材の接合面を溶かすには裏側の樹脂の光吸収率を表側の樹脂よりも高く設定しなければならず、接合面の両側で同じ樹脂を使えなかった。そこで新技術では、ヒートシンクで表側の樹脂から熱を吸い取るようにして、レーザーの欠点を補った。
新技術は、仕上がりの精度と信頼性が求められる精密デバイスの樹脂製きょう体や、医療用マイクロチップ、液晶パネルなどの溶着組み立てに応用できる見込みだ。清和光学製作所は、[1]小型電子部品、[2]マイクロ流路、[3]フラットパネルに対応できる3種類の溶着機を完成させている(図3)。
[1]はレーザースポットのスキャンにより、端子などを避けながらポリフェニレンサルファイド(PPS)材の異形状の外周を溶着する。[2]は、同じくレーザースポットのスキャンによってシクロオレフィンポリマー(COP)材の流路外周を、焼けやガス化を起こすことなく高精度に溶着できる(図4)。[3]は、レーザーの整形されたラインビームを順次照射し、ポリエチレンテレフタレート(PET)材の全周を封止する。
今回の研究の枠組みであるA-STEPは、大学や公的研究機関などで生まれた研究成果を実用化し、社会に還元することを目指す技術移転支援プログラム。企業主導フェーズでは、大学などの研究シーズを用いて企業などが実施する開発事業で、リスクを伴う規模の大きなものを支援し、実用化を後押しする。NExTEP-Bタイプ/Aタイプは、2020年度から「A-STEP企業主体(マッチングファンド型/返済型)」として公募している。