東北大学は、極低温から+200℃までと幅広い温度範囲で超弾性を発現する鉄(Fe)系合金を開発したと発表した(図1)。東北大学大学院工学研究科金属フロンティア工学専攻の大森俊洋准教授やJi Xia大学院生らの研究グループの成果。温度変化の影響をほとんど受けずに利用できるため、住宅やビル、高速道路などの耐震構造材として用いる他、月や火星といった極限温度環境での使用も期待できるという。
超弾性は、大きく変形させても力を除けば元の形状に戻る性質。一般の金属材料に0.5%程度を超えるひずみを与えると、除荷後にひずみが残るが、超弾性合金では数%から10%程度の変形を与えても元の形状に復元する(図2)。超弾性合金としては従来、ニッケル(Ni)-チタン(Ti)合金が医療デバイスなどに使われている。
新開発の合金はFeを主成分とし、マンガン(Mn)やアルミニウム(Al)、Ni、クロム(Cr)を含む。温度が変化しても応力がほとんど変わらず、−273℃の極低温から+100℃以上までで応力変動が50MPa以下に収まるとする(図3)。組成の調整により、高温ほど強度が低下する性質も持たせられる。
超弾性合金として実用化されているNi-Ti合金には、温度が上昇すると変形強度が高まり、力学特性が安定しないという欠点があった。温度が1℃上がると応力が約6MPa高くなり、実用的に超弾性を利用できる温度は-20~+100℃ほど。応力変動が50MPa以下に収まるのは、室温近傍の約8℃の範囲に限られるという。
新開発の合金は安価な材料で構成され、大型部材として利用できる可能性がある。そのメリットを生かして、例えば建造物の制震構造への利用を想定している。近年、制震構造に超弾性合金を利用する研究が進んでいるが、現実的なコストで実現できる超弾性合金が存在しなかったという。それに対して新開発の合金は、コストを抑えられる上、外気温の変化に力学特性が影響されにくいことから汎用性にも優れる。研究グループは今後、大型部材化と超弾性の性能評価を実施し、建築・土木分野での適用を目指す。
さらに、約400℃の範囲で応力変化が50MPa以内という性質は、温度変化の激しい地球外の環境に対応可能なことも示す(図4)。そのため、日本や米国などが構想・計画している探査において、新開発の合金を衝撃吸収材料や振動吸収材料に使うことも考えられるという。