PR

 東京都立大学と北里研究所、横浜国立大学、名古屋市立大学は、特定の蒸気を感知して可逆的に変形・変色する新材料を開発したと発表した。センサーの他、電源や熱源なしで駆動するアクチュエーターなどへの応用が期待できる。

(出所:東京都立大学・北里研究所・横浜国立大学・名古屋市立大学)
図1:合成した環状チオフェン6量体分子の構造
[画像のクリックで拡大表示]
* 東京都立大学大学院理学研究科客員教授(名誉教授)の伊與田正彦氏と北里大学大学院理学研究科講師の長谷川真士氏、横浜国立大学大学院環境情報研究院教授の大谷裕之氏、名古屋市立大学大学院理学研究科教授の青柳忍氏による共同研究の成果。ニュースリリース

 開発した材料は、フェニル(Ph)基を2個付加したチオフェン分子6個から成る環状分子(図1)。この環状分子を特定の条件下で積層するように超分子集合させて、繊維状物質を形成した(図2)。Ph基は炭素原子6個が6角形状に結合して出来た原子団、チオフェンは炭素原子4個と硫黄原子1個が5角形状に結合して出来た分子だ。合成した環状分子は特定の小さな分子を分子内・分子間に取り込める。その際、わずかに分子構造を変化させる。

図2:チオフェン分子(a)、チオフェン分子6個から成る環状分子(b)、環状分子の積層構造(c)
図2:チオフェン分子(a)、チオフェン分子6個から成る環状分子(b)、環状分子の積層構造(c)
(出所:東京都立大学・北里研究所・横浜国立大学・名古屋市立大学)
[画像のクリックで拡大表示]

 環内にアセトン分子を取り込んだ場合、繊維状物質は黄色になるが、乾燥させるとアセトン分子を放出して橙(だいだい)色に変わると同時に湾曲する(図3)。乾燥後にアセトン蒸気に触れさせると、アセトン分子を吸収して色と形状を元に戻す。

図3:アセトン蒸気による変色(左)と変形(右)(出所:東京都立大学・北里研究所・横浜国立大学・名古屋市立大学)
図3:アセトン蒸気による変色(左)と変形(右)(出所:東京都立大学・北里研究所・横浜国立大学・名古屋市立大学)
[画像のクリックで拡大表示]

 長さが約1mmの繊維状物質がアセトン蒸気の有無によって湾曲したとき、先端位置は約0.1mm上下する。この可逆的な変形は、アセトン蒸気刺激と乾燥の繰り返しによって10回以上繰り返される。蒸気刺激前後の繊維状物質の内部構造を、大型放射光施設であるSPring-8(兵庫県・佐用町)でX線回折によって調べたところ、蒸気刺激で分子配列が可逆的に変化し、変形が引き起こされると分かった。

 研究グループによると、光や熱、外力、蒸気などの外部刺激を感知して自ら可逆的に変形・運動する「スマートマテリアル」は、人工筋肉やアクチュエーター、センター、生物模倣技術などへの応用が期待されている。特に蒸気刺激は、電源や熱源を必要としないので省エネルギー化が可能だ。しかし従来、蒸気刺激に対して変形・運動する物質は少ない。高分子材料でいくつか報告例があるものの、それらの変形・運動を可逆的に制御するには至っていないという。

 研究グループは、複数の安定な分子構造と結晶構造を持つ環状分子を用いれば、蒸気刺激に対して可逆的に繰り返し変形・変色する物質を開発できると示した、と研究成果を位置付ける。蒸気刺激に対して駆動するスマートマテリアルの開発にもつながると見ている。例えば、特定の蒸気を感知するセンサー、蒸気によって構造や吸光・蛍光特性が変わるソフトアクチュエーター、蒸気の流れを回転運動に変換する分子モーター、蒸気で駆動する人工筋肉といった応用が考えられる。