東京大学と北陸先端科学技術大学院大学、神戸大学、筑波大学は、「史上最高の耐熱性を持つ」(東京大学など研究チーム)バイオマスプラスチック(バイオプラ)を開発したと発表した。東京大学大学院農学生命科学研究科教授の大西康夫氏と北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科教授の金子達雄氏、神戸大学大学院工学研究科教授の荻野千秋氏、筑波大学生命環境系教授の高谷直樹氏らの研究チームによる成果だ。紙パルプを原料にして、超高耐熱性プラスチックのポリベンズイミダゾール(PBI)を生産する新たなプロセスを開発した(図)。

図:紙パルプから超高耐熱性プラスチックフィルムを一貫生産するプロセス(出所:北陸先端科学技術大学院大学)
図:紙パルプから超高耐熱性プラスチックフィルムを一貫生産するプロセス(出所:北陸先端科学技術大学院大学)
[画像のクリックで拡大表示]

 今回のプロジェクトでは、まず神戸大が、非可食バイオマスである紙パルプを高効率に酵素糖化し、高濃度のグルコースを含む糖化液を生産するシステムを開発した。同システムは、最高90g/Lの濃度で糖化液を生産できる。併せて神戸大と東大は、PBIの原料となる芳香族化合物(3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸:AHBA)を高効率に生産する遺伝子組換えコリネ菌を創成。このコリネ菌を用いて、紙パルプ糖化液から3.3g/Lの効率でAHBAを発酵生産し、高純度に精製した。

 一方で筑波大は、PBI原料と共重合する化合物として4-アミノ安息香酸(アラミド繊維原料:ABA)に着目。ABAを生産する遺伝子組み換え大腸菌を構築するとともに、紙パルプ糖化液から1.6g/Lの効率でABAを発酵生産し、高純度に精製した。さらに、北陸先端大は化成品を用いた検討を重ね、PBIの直接の原料となる3,4-ジアミノ安息香酸(DABA)をAHBAから簡便に合成する方法と、DABAからPBIフィルムを作製する方法を開発。DABAとABAを共重合すると耐熱性が大きく向上するのを見出し、既存のプラスチックに比べて耐熱性の高いプラスチックを実現した(表)。DABA:ABA=85:15のコポリマーの10%重量減少温度は、740℃超とする。

表:新規バイオPBIとアラミド含有バイオPBIの熱分解温度の比較(出所:北陸先端科学技術大学院大学)
表:新規バイオPBIとアラミド含有バイオPBIの熱分解温度の比較(出所:北陸先端科学技術大学院大学)
[画像のクリックで拡大表示]

 一連の研究により同プロジェクトは、紙パルプ糖化液を使って発酵生産した芳香族化合物から同等の性質を有するPBIフィルムを作製できるのを示すとともに、紙パルプから超高耐熱性PBIフィルムを一貫生産するプロセスのプロトタイプを構築した。開発した超高耐熱性バイオPBIは、強度が高く軽量なので、さまざまな用途で利用が見込める。

 例えば、新開発のバイオPBIは、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫などの軽量金属の融点で分解が起こらないので、これらの軽量金属との溶融複合化が可能。自動車ボディや建築部材の他、電線エナメルや高耐熱絶縁紙、マニホールド、オイルパンといった駆動部位周辺部材への応用が想定できる。その他には、超難燃性の求められる航空・宇宙機器の部品への活用も考えられる。研究チームは、PBIをリチウム(Li)イオン化し、Liイオン2次電池の固体電解質として利用できるのを既に明らかにしており、新規バイオPBIは、より高耐熱の固体電解質開発にもつながるという。

 既存のバイオプラには、ポリアミド11やポリヒドロキシアルカン酸、ポリ乳酸などがあるが、いずれも脂肪族ポリマーであり、耐熱性が低いという課題があった。一方、芳香族系ポリマーは耐熱性が高いものの、その原料は石油由来の芳香族化合物だ。そこで、天然に存在する芳香族ポリマーであるリグニンの利用も検討されているが、分子構造の複雑なリグニンを使って耐熱性の高いバイオプラを造るのは難しいとされる。

 そのため高耐熱性のバイオプラを実現するには、芳香族系ポリマーの原料となる芳香族化合物を再生可能資源から造り出さなければならない。研究チームのメンバーは、その方法として微生物を用いた発酵生産が有力だと見て、発酵生産させた芳香族化合物を用いた芳香族ポリマーの合成に取り組んできた。それらの研究では、試薬として購入したグルコースを炭素源にして微生物を増殖させており、微生物による有用物質生産では食料と競合しない非可食バイオマスの利用も課題の1つだった。

 今回のプロジェクトは、これらの課題の解決を目指したもの。科学技術振興機構 (JST) の戦略的創造研究推進事業(CREST)「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」で、「高性能イミダゾール系バイオプラスチックの一貫生産プロセスの開発」として、2013〜2018年度に実施された。同プロジェクトは内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」にも採択されており、研究チームは現在、バイオPBIの社会実装に向けた研究開発に取り組んでいる。