東北大学を中心とする研究グループは、東北大学金属材料研究所のスーパーコンピューター「MASAMUNE-IMR」を活用して、精密な微小機械システムにおける材料の摩耗量を予測できる理論式を導き出した。同研究所教授の久保百司氏や東北大学大学院工学研究科助教の王楊氏、同工学研究科教授の足立幸志氏、中国・上海海洋大学副教授の許競翔氏らのグループによる成果。ドローンやロボット、自動車、医療機械などに利用されている微小機械システムの長寿命化や故障・事故の防止につながるとしている。

 今回の研究には、大きく分けて2つの目的がある。1つ目は、実験的に直接観察できない微小機械システムの摩耗メカニズムと、その要因となる化学反応を明らかにすること。2つ目は、その知見に基づいて微小機械システムにおける材料の摩耗量の予測式を提案することだ。研究グループは、3000兆回/秒の計算が可能なMASAMUNE-IMRを用いてこれらに取り組んだ。

 併せて、金属材料研究所が開発した大規模分子動力学シミュレーター「LASKYO」を活用。微小機械システムでコーティング材として用いられるDLC(Diamond‐Like Carbon)を例に、微小機械システムの摩耗の原因となる摩擦界面における化学反応をシミュレーションした。

 その結果、微小機械システムの摩耗は[1]2つの表面の接触による化学結合の形成、[2][1]によって引っ張られた原子表面からの脱離の2段階で起きることが明らかになった。[1]と[2]に反応速度論を応用し、微小機械システムにおける材料の摩耗量の予測式を導き出した。DLCの摩耗量のシミュレーションによって構築した予測式の有効性と汎用性も検証したという。

 微小機械システムでは、エンジンやモーターなどの一般的な大きさの機械システムでは問題にならない極微少量の摩耗がシステム全体に大きく影響するため、極限まで摩耗量を減らす必要がある。しかし、微小機械システムにおける摩耗現象は数十nmの摩擦界面で起きており、一般的な機械システムに対する従来の摩耗量の予測式は適用できない。そのため、どのような材料をどのような条件で使用すれば、どのくらいの摩耗が発生するのかを定量的に予測できる理論式の構築が求められていた。

 研究グループが提案した予測式は、こうしたニーズに応えるもので、摩耗を抑えられる材料の開発や使用条件の最適化が可能になるという。研究グループは今後、微小機械システムを構成するさまざまな材料について予測式を応用し、微小機械システムの長寿命化と故障・事故の防止を図れる材料設計・材料開発を推進する。これによって微小機械システムの応用分野と市場の拡大、耐摩耗性材料の研究開発にもつなげていく。

 今回の研究は、文部科学省の「ポスト『京』萌芽的課題『基礎科学の挑戦ー複合・マルチスケール問題を通した極限の探求』」や、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)、戦略的イノベーション創造プログラム「革新的燃焼技術」、科研費(Grant No. 17K14430, 19K05380, 18H03751)の助成を受けて実施された。