NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、タイでスマートグリッドの実証実験を行う(ニュースリリース)。NEDOはスマートグリッドの実証実験を世界各地で行っているが*1、今回は送電網*2を対象にしていることが特徴である。これまでは配電網*2を対象にした実証実験がほとんどだった。今回の実証実験は、タイの発電・送電事業を担う国営電力会社「タイ発電公社(EGAT:Electricity Generating Authority of Thailand)の送電網で行われる。なお、実証実験の実務は、委託先の日立製作所が担う。
実証実験の対象は、送電系統の最適化を図るソフトウエアで、「電圧・無効電力オンライン最適制御システム(OPENVQ:Optimized Performance Enabling Network for Volt/var(Q))」と呼ぶ。OPENVQは日立と日本の送配電会社が開発した。すでにプロトタイプは完成しており、学会発表もしている。実証実験は今回が初めて。効果を検証して、日立は事業化に弾みをつける考えである。
NEDOと日立によれば、OPENVQを使うことによって、送電ロスが減少し、CO2排出量も減る。また、送電可能容量が増える。これまでもこうした効果を得る手法/技術はあったが、設備(ハードウエア)の追加が必要だったという。今回は、EGATが運用している既存の送電系統制御システム「SCADA:Supervisory Control And Data Acquisition」にソフトウエアのOPENVQを連携させるだけで済むので、低コストで実現できるとする。なお、実証実験では、SCADAとは別のコンピューター上でOPENVQを稼働させる。万一、実証実験中にOPENVQ側にトラブルが発生しても、SCADAが停止する(すなわち、送電が停止し停電が発生する)ことを避けるためである。
1時間ごとに最適化可能
OPENVQによる送電最適化は次のように行う。まず、SCADAから送電状況のデータを受け取る。そのデータを分析して送電網の最適な電圧値(電圧プロファイル*3)を決める。この電圧プロファイルに沿って送電できるようにOPENVQはSCADAの制御情報を出力する。OPENVQを利用することで1時間ごとに最適な電圧プロファイルを決めることができる。従来は、需要予測に基づいて事前に決めておいた電圧プロファイルを平日と休日で変更したり、季節によって変更したりしていたという。NEDOによれば、タイでは従来、化石燃料による発電がほとんどだったため、こうした電圧プロファイルの変更方法でも、大きな問題はなかったという。
最近、タイでは、経済発展による電力需要の増加で、電圧プロファイルの最適化が重要になっている。これで、例えば、送電ロスを低減する。また、化石燃料以外での発電も取り入れる必要性がでてきた。例えば、本格的な太陽光発電システムを構築したり、隣国のラオスが水力発電した電力を購入したりする予定である。化石燃料だけの場合に比べて、発電が不安定になり、その影響が送電に表れる恐れがある。電圧プロファイルの最適化を図りたいという要求が生じた。タイ側でOPENVQのプロトタイプを評価したところ、満足な結果が得られたため、今回の実証実験を行うようになった。
温暖化ガスを年間で1~2万トン削減
今回の実証実験*4を始めるに当たり、NEDOはタイのエネルギー省(MOEN)と協力合意書(LOI:Letter of Intent)を20年12月に取り交わした。同時に実証実験の委託先である日立製作所と、タイ発電公社(EGAT)は、プロジェクト合意書(PA:Project Agreement)にサインした。
同月に実証実験のプロジェクトは始まった。まず、OPENVQのプロトタイプをベースに実証実験システムを設計・開発し、それが完了すると設置や試運転を行う。そして、22年度上期中(22年9月まで)に実証実験を開始する予定である。実証実験ではOPENVQの導入によって送電ロスを低減して、温暖化ガス(CO2)排出量が年間で1万~2万トン削減できることを検証する。さらに、今回の実証実験では、2国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)活用して温暖化ガス排出削減効果の定量化を図る。実証実験は22年度中(23年3月)に完了する予定である。