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 三菱パワーは2021年3月1日、アンモニア(NH3)を火力発電の燃料として単独で利用するガスタービンシステムの開発を始めたと発表した。システムの規模は40MW(4万kW)級で、火力発電としては中小規模である。アンモニアの使用量では、JERAが年内にも愛知県の大型石炭火力発電所で開始する20%混焼のほうが多いが、アンモニア100%の専焼システムとしては世界最大級だ(関連記事)。

 三菱パワーはガスタービンを開発後、燃焼試験などを経て、2025年以降の実用化を目指すという。

今回開発を始めるガスタービンと同じ40MW級の天然ガス焚き「H-25形ガスタービン」
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今回開発を始めるガスタービンと同じ40MW級の天然ガス焚き「H-25形ガスタービン」
(写真:三菱パワー)

 NH3は大気中では、例えば4NH3+3O2→2N2+6H2O といった反応で燃焼し、二酸化炭素(CO2)を出さない。摂氏-253度の極低温まで冷やさないと液化しない水素(H2)に対して、NH3は同-33.3度で液化する。たとえ摂氏20度でも約8.5気圧と比較的低圧で液化する。しかも、液化アンモニアは、取り出せるH2量が同じ液化水素よりもコンパクトになる。

 このため、常温常圧のままでは体積が大きくて運搬や貯蔵が難しいH2に代わって、燃料として幅広く使われるようになる可能性がある。

 同社は水素を火力発電の燃料とするガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)向け燃焼器については既にほぼ技術開発にメドをつけ、2025年には400M~500MWという大型システムの実用化も見込んでいる。今回、燃料の選択肢としてアンモニアも使えるようにすることで、産業分野や離島などでのカーボンフリー発電の選択肢を増やしていくという。

アンモニアの3大課題のうち2つが急速に改善

 もっとも、NH3へのこうした期待は数十年前からあった。しかし、課題が大きく3つあることで、実用化には至っていなかった。それは、(1)燃焼時に窒素酸化物(NOx)が多く発生し大気汚染につながる、(2)NH3合成時にエネルギー損失が大きい、(3)NH3ガスが人体に極めて有毒、という課題だ。

 このうち、(1)についてはこの1~2年というごく最近になって、NOxをほとんど発生させない燃焼条件が知られるようになり、それを実現する燃焼器の構造も開発された。このことが、火力発電の燃料としてのアンモニアに急速に注目が集まり始めた背景になっている。例えば、CO2フリーアンモニアの普及促進を図る「クリーン燃料アンモニア協会(CFAA、旧グリーンアンモニアコンソーシアム)」の会員数は100社/団体超と急速に増えている。

 課題の(2)については、H2と大気中の窒素(N2)からNH3を合成するハーバーボッシュ法(HB)の課題だが、誤解もあるようだ。既存のHB法はプロセス温度が摂氏400~500度、圧力が30~50気圧と高いため、しばしば「膨大なエネルギーを必要とする」と記述される。しかし、反応温度や圧力が高いこととエネルギー損失の大きさは別のことだ。CFAAの役員企業の1社である日揮ホールディングスによれば、「合成時の反応は発熱反応で、外部からのエネルギー投入量はそれほど大きくなく、HB法のエネルギー損失は約3割」だという。NH3合成時に限らず、エネルギーキャリアの変換には少なくない損失がある。例えば、ガソリン焚きの自動車のような小型内燃機関のエネルギー効率はかつては15%(損失85%)前後と極めて低かった。3割の損失は特別大きいとはいえないのである。

 しかも、そのHB法ではこの数年で、画期的な新触媒が次々に開発され、低温低圧化と高効率化が今後急速に進む見通しだ。損失が低減し、原料であるH2の価格が下がれば、NH3の価格も大きく下がってくるだろう。

漏れ出せばすぐ気が付く

 NH3の(3)の課題、つまり有毒であることだけはすぐに解消とはいかない。ただし、アンモニアのボンベやタンクが、すぐに逃げ出せない閉鎖空間で一気に破裂するなどの状況を別にすると心配しすぎる必要はないようだ。

 米国政府の産業衛生専門官(ACGIH)や日本の産業衛生学会によれば、NH3ガスは、約0.7ppm以上で健康上の懸念が生じ、目や喉の粘膜への影響から許容濃度を25ppm(8時間)としている。工場や発電所などで扱うさまざまな化学物質の中で、特に有毒性、危険性が高いとはいえない。

 ちなみに、厚生労働省の硫化水素(H2S)ガスの目の粘膜に対する許容濃度は10ppm。火山や温泉などではすぐそれと分かる臭いがあるが、その臭いの許容値は5ppmとされる。NH3にも不快な刺激臭があり、「どこかから漏れてくればすぐに気が付き、知らないうちに許容量を超えていたという事態にはなりにくい」(あるアンモニア研究者)という。

 NH3は水にも非常によく溶けるため、一度漏れたら制御不可能というわけでもない。