東京都立大学理学研究科物理学専攻助教の後藤陽介氏と同准教授の水口佳一氏らの研究グループは、キャリア極性(p型・n型)が方向によって異なる多結晶材料を開発した。この材料を利用すれば、1つの材料で熱電変換が可能で、従来に比べて小型・軽量な熱電モジュールを実現できる可能性がある。

 研究グループは、ナトリウム(Na)とスズ(Sn)、ヒ素(As)から成る層状化合物(NaSn2As2)に1軸加圧焼結(上下2方向から加圧し焼結する加工)を施し、配向性多結晶材料を作製(図1)。この多結晶材料のキャリア極性が測定方向によって異なることを発見した。

図1:新開発した多結晶材料の結晶構造
図1:新開発した多結晶材料の結晶構造
ナトリウム(Na)とスズ(Sn)、ヒ素(As)から構成される。(出所:東京都立大学)
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 研究グループがX線回折測定したところ、加圧に対する平行面と加圧に対する垂直面では解析強度が大きく増強される位置が異なっていた(図2)。この結果から、新開発の材料が配向性を持つことが分かる。

図2:X線回折測定結果
図2:X線回折測定結果
上段(赤色)が加圧に対して平行面の、中段(青色)が加圧に対して垂直面の、下段(黒色)が粉末試料の測定結果。矢印は、配向によって明確に強度が増した回折ピークを示す。(出所:東京都立大学)
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 また、温度差当たりに生じる起電力の大きさを表すゼーベック係数は、加圧に対して平行方向では正である一方、垂直方向では負だった(図3)。これは半導体としてのキャリア極性が、平行方向は正孔(ホール)で電荷を運ぶp型、垂直方向は電子の移動で電荷を運ぶn型であることを示すという。

図3:NaSn2As2のゼーベック係数の温度依存性
図3:NaSn2As2のゼーベック係数の温度依存性
焼結した方向に対して平行のとき(赤色)は係数が0以上、垂直(青色)のときは−5未満を示す。すなわち、平行方向ではp型、垂直方向ではn型と、キャリア極性が異なる。(出所:東京都立大学)
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 一般に熱電変換では、熱流出によって外部の回路が破損するのを防ぐために、キャリア極性がp型の材料とn型の材料を交互に並べてモジュールを構成する。その際、材料ごとに熱電特性を最適化し、それぞれで異なる機械強度や化学的安定性を考慮して組み合わせなければならない。

 これに対して、結晶中のある方向ではp型を別の方向ではn型、と方向依存性を示す材料を用いれば、単一の材料で熱電変換が可能だ。その上、温度差と発電方向が異なるため、熱流出による外部回路の破損が起きにくい。

 しかし従来、このような特性を持つ材料は少なく、特に、大型化と加工がしやすい多結晶材料の開発が求められていた。今回、キャリア極性に方向依存性があり、大型化と加工が容易な配向性多結晶を開発したことで、具体的な熱電モジュールの構築を検討できる。