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 米技術メディアのDigidayは2021年6月15日(米国時間)、米Google(グーグル)が開発中のネット広告技術「FLoC(Federated Learning of Cohorts、フロック)」を米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)が自社サイトでブロックしたと報じた。グーグルはサードパーティークッキーを代替し、効果的なネット広告配信を可能にする技術として、FLoCを世界中で試験している。世界最大のEC(電子商取引)サイトであるアマゾンでFLoCが機能しないとなれば、同技術の精度に疑問符が付き普及の妨げになる可能性もある。

 FLoCとは、グーグルのWebブラウザー「Chrome」が備えるAI(人工知能)を使って利用者の興味や関心を推測し、ネット広告の配信に使う技術である。閲覧履歴が似た人を数千人単位のグループ(コホート)にまとめ、利用者をいずれかのコホートに割り当てて広告配信に利用する。利用者がグーグルや一般のWebサイトと共有するのはコホートの情報のみで、Web閲覧履歴そのものは端末側だけに保存するため、グーグルは利用者のプライバシーを守れるとしている。

 Digidayはアマゾンと同社傘下の食品スーパー「ホールフーズ・マーケット」、靴のネット通販「ザッポス」などのWebサイトのコードを調べた。Chrome利用者がこれらのサイトを訪れた際に、訪問者の行動分析結果をコホートにまとめたり利用者を割り当てたりしないよう、グーグルに伝えるコードが存在したという。アマゾンが所有する多くのドメインでは、「HTMLページからレスポンスヘッダーを送信するという、グーグルが推奨する方法を採用している」(Digiday)。ただ、ホールフーズだけは別の手法を採用していた。調査に協力した技術者によると、ホールフーズの手法は「(アマゾン側の)見落としか、何らかのテストのためにアマゾンが意図的に選択した可能性がある」(同)という。

 DigidayはアマゾンがFLoCをブロックする理由として、同社サイトにおける行動履歴データを守りたいためと説明している。商品の購入や検索、レビューといった「貴重なデータを、グーグルや他のアド(広告)テクノロジー企業のような部外者に利用されるのは得策ではない」(同)。ネット広告事業における競争上の判断もあるという。Digidayによればアマゾンも独自の広告識別子を発表する予定で、「グーグルが支配しているネット広告市場に対して、アマゾンはより多くの広告費を獲得したいと考えている」(同)。

 ある広告代理店幹部はDigidayに対して、「アマゾンの訪問者データがなければグーグルのFLoCは不利になる可能性がある」と語ったという。「あなたのアマゾンの閲覧履歴こそがあなたの正体」(別の協力者)であり、アマゾンの閲覧履歴を使えないとすればFLoCの広告配信精度は不十分なものになると示唆した。FLoCをブロックすればアマゾン自身もデメリットを被る可能性があるが、「アマゾンが持つ消費者の情報の宝庫を考えれば、(FLoCをブロックして得られなくなる)情報の価値は限られている」(Digiday)。

 グーグルは2022年初めにもChromeにおいてサードパーティークッキーを取得しないようにすると表明し、代替技術としてFLoCの開発と試験を進めている。FLoCに対してはデジタル分野のプライバシー保護を掲げる団体の米EFF(Electronic Frontier Foundation、電子フロンティア財団)が反対を表明するなど、批判が相次いでいる。

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