富士経済(東京・中央)は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)と炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)の世界市場を調査し、「炭素繊維複合材料(CFRP/CFRTP)関連技術・用途市場の展望 2021」にまとめた。35年の世界市場は、CFRPが20年比2.8倍、CFRTPが同8.6倍と予測(表1)。カーボンニュートラルなどの世界的な環境意識の向上により、CFRP/CFRTPの需要が増えるとみている。

表1:炭素繊維複合材料の世界市場動向(出所:富士経済)
表1:炭素繊維複合材料の世界市場動向(出所:富士経済)
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 CFRPは、航空機と風量発電機のブレード(以下、風力発電ブレード)を2大用途としており、特に近年は風量発電ブレードの需要が増えている。次いで、自動車や圧力容器、スポーツ・レジャー向けでも多く採用されているという。20年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が影響して、単価の高い航空機などで需要が減少。世界市場は、19年比で21.8%減の1兆2464億円だった。

 だが「コロナ禍の影響が落ち着きつつある」(同社)ことから、21年以降はCFRPの需要も徐々に回復する見込みだ。25年ごろから自動車向けの需要増加が期待されるのに加えて、航空機・風力発電ブレード向けの需要も好調に推移する見通し。同社は35年の市場を、20年比2.8倍の3兆4958億円と予測している。

 CFRTPは、CFRPに比べて成形加工時間を短縮できるのが利点だ。短/長繊維と連続繊維の加工品があり、短/長繊維はATM(現金自動預け払い機)などの自動機器、ギアやモーターなどの静電・摺動(しゅうどう)部品、エアコンや掃除機などの家電、OA機器を中心に採用が進む。一方で、連続繊維の採用は航空機に限られているという。19年以降、需要先における設備投資抑制の影響で市場は低迷しており、20年の市場は19年比21.8%減の410億円だった。

 21年以降、各産業における設備投資の回復によって需要が増え、25年には市場が19年を上回る予想。30年にかけてマルチマテリアル成形技術の蓄積や開発コストの抑制が進み、自動車向けを中心に市場が拡大する見通しだ。

自動車用途は35年に8.9倍、燃費規制対応で需要増

 航空機と風力発電ブレード、自動車の3つの用途別に市場動向を見ると、軽量素材のニーズが特に高い電気自動車(EV)を中心に、自動車用途の大きな伸びが見込まれる(表2)。20年は、主要な採用車種がモデル末期となり販売が減少している上、コロナ禍の影響で自動車の生産台数も減ったため、市場が大幅に縮小したが、35年には20年比で8.9倍の5660億円に拡大すると予測している。

表2:用途別のCFRP/CFRTP世界市場動向(出所:富士経済)
表2:用途別のCFRP/CFRTP世界市場動向(出所:富士経済)
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 同社によると、現状、量産車ではコストを優先して既存技術を採用しているものの、30年に厳格化される燃費規制への対応として車体の軽量化の動きが活発になり、25年ごろから開発される量産車では、マルチマテリアル技術の採用が始まると期待される。それに伴い、CFRP/CFRTPの需要が増えるという。

 航空機用途の市場は20年に縮小した。大型機体の計画がキャンセルされたり、大手航空機メーカーがシステムトラブルなどで生産を停止したり、さらにはコロナ禍で受注がキャンセルされたりしたからだ。しかし、リージョナルジェットやシングルアイル機体などの世界的な増産に伴う需要増加により、25年ごろには19年の市場を上回るとみられる。今後は、オートクレーブを使用しない成形加工技術が確立され、量産機体への採用が増える見込みだ。

 風量発電ブレード用途では、洋上風力発電の増加とブレードの大型化に伴い、強度と剛性を高めるためにCFRPの採用が増えている。コロナ禍の影響で稼働を停止する工場もあったが、影響は「限定的」(同社)。今後も世界的な環境意識の向上は続くとみられ、市場拡大が期待されるという。

リサイクル性の高さからCFRTPの端材利用が拡大か

 CFRP/CFRTPの関連部材・装置についても、市場は拡大する見通しだ。例えばPAN系炭素繊維は、航空機や風量発電ブレードで使われるCFRP向けが中心で、今後もCFRP向けが市場をけん引するとみられる。20年の市場は、数量ベースでは縮小したものの、平均単価の高いCFRP向けの比率がやや高まったこともあり、金額ベースでは微増となった。30年にかけては、量産加工性やリサイクル性に優れたCFRTP向けの採用が自動車用途で増える予想。35年の世界市場は、20年比2.4倍の5503億円と予測している(表3

表3:PAN系炭素繊維の世界市場動向(出所:富士経済)
表3:PAN系炭素繊維の世界市場動向(出所:富士経済)
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 CFRP/CFRTPの加工時に発生する端材を活用した成形加工品も調査し、35年の市場は20年比5.7倍の804億円と予測する(表4)。端材利用CFRP/CFRTPは現状、静電部品や家電部品、自動車部品などに採用されている。自動車分野では、CFRP/CFRTPの採用を増やすにはリサイクル技術の確立が必須とされており、リサイクル繊維加工品の品質安定化に向けて技術開発が進んでいる。

表4:端材利用CFRP/CFRTPの世界市場動向(出所:富士経済)
表4:端材利用CFRP/CFRTPの世界市場動向(出所:富士経済)
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 富士経済によると、フランス・エアバス(Airbus)が25年にかけて航空機の各種加工工程で発生した端材の95%をリサイクル市場へ流通させ、そのうち5%を航空機部品で再利用する目標を掲げている。そのため今後は、自動車と航空機での需要増加が期待される。こうした背景から、短期的にはCFRPの工程端材が市場の中心となるものの、中長期的にはリサイクル性に優れたCFRTPの端材の利用が本格化する、と同社は見ている。

 CFRP/CFRTPを成形加工する装置の市場は、それぞれ20年比3.8倍と4.8倍に拡大する見通し(表5)。このうちCFRP用成形加工装置市場は、コロナ禍の影響による生産遅延や設備投資の見直しなどによって縮小したが、21年以降は設備投資の回復が見込まれる。

表5:CFRP/CFRTP成形加工装置の世界市場動向(出所:富士経済)
表5:CFRP/CFRTP成形加工装置の世界市場動向(出所:富士経済)
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 加えて自動車分野では、樹脂注入含浸成形(RTM)やウエットコンプレッション成形(WCM)などによる部品生産が本格化し、それに伴う需要増加から、装置市場は回復に向かうとみられる。建築・土木分野では、パイプ状建材の生産拡大に伴い、F/W(フィラメントワインディング)装置の導入が増加する見込みだ。航空機分野でも、25年以降にビジネス/リージョナルジェットなどの次世代機でCFRPの採用が増えるなど、今後の伸びが期待されるという。

 CFRTP用成形加工装置市場では射出成形機が大半を占め、自動車分野などで採用される端材利用CFRTP向けがけん引している。25年ごろには、自動車分野におけるラミネート成形加工の採用増加に向けて、プレス機などの装置の導入が本格化するとみられており、市場は拡大していく、と同社は予想する。

 今回の調査は、CFRPとCFRTPに加えて、PAN系炭素繊維(レギュラートウ/ラージトウ)やマトリクス樹脂・添加剤(PES)、中間基材(プリプレグ、ペレット/シート、ラミネート)、接着剤などの関連資材、成形加工装置や3Dプリンターなどの関連装置を対象とした(表6)。用途としては、自動車や航空機、風力発電ブレードの他、圧力容器(高圧水素タンク、CNGタンク)、建築・土木、スポーツ・レジャー、静電部品・摺動部品、船舶などを調査した。調査期間は21年1〜3月。調査に当たっては、同社の専門調査員によるヒアリングと関連文献調査、社内データベースを併用した。

表6:調査対象(出所:富士経済)
表6:調査対象(出所:富士経済)
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