プラスチック材料メーカーのエフピー化成工業(静岡県富士市)は、パルプなどから抽出したセルロースファイバー(セルロース繊維)をプラスチックに51%以上配合できる複合材「グリーンチップCMF」を巴川製紙所(TOMOEGAWA)と共同開発した(図1)。セルロースファイバーの分散性と成形時の流動性を高めたのが特徴。植物由来であるセルロースファイバーの高配合化は石油由来プラスチックの使用量削減につながる。

 両社はこの複合材の実用化に向け、強度や耐熱性といった物性の評価を進めるとともに、金型メーカーの協力を得て、実製品での生産性を検証するためのテスト成形を実施している。カーボンニュートラルへの注目が高まる中、今後は植物由来の材料による製品企画が増えるとみて、対応できるように準備を整える。

図1 グリーンチップCMFによる成形品の例
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図1 グリーンチップCMFによる成形品の例
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図1 グリーンチップCMFによる成形品の例
(出所:巴川製紙所・エフピー化成工業)

「紙のまち」富士市で進む、CNF研究開発

 セルロースファイバーは、植物の主成分であるセルロースから抽出した繊維状の物質。製紙材料などに使われるパルプを化学的/機械的に処理して造る。直径がnmレベルに微細化したものはセルロースナノファイバー(CNF)と呼ばれ、鋼鉄の5分の1の軽さでありながら、同比5倍以上の強度を持ち、熱膨張率はガラスの50分の1と変化の少ない高性能素材だ。大気中の二酸化炭素(CO2)を吸着・固着した植物由来であるため、素材としてはカーボンニュートラルである。

 経済産業省は大気中へのCO2排出量を削減でき、かつ幅広い産業分野へ適用が期待できるとしてCNFに着目し、研究開発支援に力を注いでいる。CNFの市場投入を目指し、製造法開発や製造コスト低減、安全性評価などの研究開発プロジェクトを実施してきた。2020年度からは「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発事業」を5年間の事業として開始し、20年度6.6億円、21年度6.3億円の予算を充てた。自動車などへの適用による軽量化での省エネルギー効果も含め、30年度時点で年間373万tのCO2排出量削減を⽬指す。

 地方でもCNFの研究開発は進む。グリーンチップCMFを開発したエフピー化成工業の地元である静岡県富士市は、古くから富士山麓の豊富な水資源を活用した「紙すき」が行われ、「駿河半紙」を製造してきた「紙のまち」。1890年に富士市域で洋紙の製造が始まって以来、製紙業が工業的に発展していくことになった。しかし、バブル崩壊の景気低迷やデジタル化の加速で紙の需要が大幅に減少し、製紙業は向かい風を受けている状況である。

 そこで富士市は、CNFを製紙業の新たな活路となる新技術と位置付け、2019年3月に「富士市CNF関連産業推進構想」を策定して産学官連携の推進を図り、同年11月には「富士市CNFプラットフォーム」を設立。CNFに関する情報の提供や共有、協業可能な企業や研究機関等とのマッチングの機会、事業者間の連携推進やネットワーク形成のための場の提供などを手掛けている。エフピー化成工業はこの富士市CNFプラットフォームに会員として参画している。

プラスチックにセルロースファイバーを高配合

 自動車や家電、産業機械などではガラス繊維を強化剤として配合するガラス繊維強化プラスチック(GFRP))が広く普及している。半面、ガラス繊維を含むため廃棄に手間がかかる、成形時の金型摩耗が激しい、リサイクルした際に強度が著しく劣化するといった課題も抱える。エフピー化成工業代表取締役社長の赤澤英郎氏は「CNFによる代替でそれらの課題を解決できると期待している」と説明する。

 ただし大量のCNFをプラスチックに混合するのは難しい。親水性の高いCNFは、水素結合による再凝固が起こりやすい、つまりCNF同士で固まりやすくプラスチックの中へ均等に分散しにくいためだ。均等に分散していないと、部品として成形した際の強度低下や生産性の悪さ、コストアップの原因になる。

 セルロースファイバー同士で固まらないようにするうえでは、直径をnmレベルでそろえたCNFよりも、直径がμmレベルのセルロースマイクロファイバー(CMF)が混ざり合った(繊維の直径がバラついている)状態の方が有利という。セルロースファイバーの含有率が40%(プラスチック60%)のグリーンチップCMFでは、セルロースファイバー全体に占めるCNF(直径30~100nm)の割合は約8%である。エフピー化成工業は詳細を明らかにしないが、混錬法も工夫して高配合を実現している。「セルロースファイバーをポリプロピレン(PP)に55%配合した試験片をX線CT画像で観察すると、繊維が均等に分散できていることが確認できた」(赤澤氏)という(図2)。

図2 セルロースファイバーの分散状況を示すX線CT画像
図2 セルロースファイバーの分散状況を示すX線CT画像
ポリプロピレンにセルロースファイバーを55%配合した。繊維同士の固まりが見られず、均等に分散していると分かる。(出所:巴川製紙所・エフピー化成工業)
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