金型業界は、2019年後半ごろから米中の貿易摩擦などの懸念材料により、特に自動車業界に関わる企業を中心に景気の陰りが心配されてきた。そこへ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広がり、ホビー関連などに関わる一部の金型メーカーは「巣ごもり需要」に救われた面があるものの、多くの企業は今後への不安を抱える。

 金型メーカーのビジネスに手詰まり感が漂う中で、金型自体を大きく変える可能性があるのが、ここのところの環境問題対応への急速な意識の高まりである。政府のカーボンニュートラル宣言の後、21年6月には「プラスチック資源循環促進法」が可決。製造業においては、環境配慮設計へ対応するための体制整備や、新たな社内設計ルールの検討などが始められている。環境配慮をうたう製品の中にはこれまでグレーな表記などが問題視されていたものもあり、それらへの厳しい取り締まりも始まる。

 このような動きは、設計製造の要件をさらに厳しくする点では悩ましい課題といえるが、真剣に取り組めば自社の優位性を強烈にアピールできる商機にもなる。

 大手自動車メーカー各社は、この数年間で既に、バイオプラスチックなど環境配慮素材の研究を先行させてきた。その素材を実際に使う場面になれば、部品製造を担うのは金型メーカーや成形メーカーといったサプライヤーである。ところが「われわれ金型屋にそういう新しい動きが降りてくるのは、かなり後」――そう話すのは、エムアイモルデ(静岡県富士市)の代表取締役である宮城島俊之氏だ(図1)。確かに、試作や量産で金型メーカーへの依頼が本格化するタイミングはもう少し先であろう。

図1 環境対応を前面に出すエムアイモルデの展示ブース
図1 環境対応を前面に出すエムアイモルデの展示ブース
「インターモールド 2021」(2021年4月14~17日、東京ビッグサイト青海展示棟)で。(出所:小林由美)
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逆境の中、業界動向にアンテナを張って動くエムアイモルデ

 エムアイモルデは1982年創業の金型メーカー。代表取締役の宮城島氏は2代目社長である。同社は主に自動車の内外装部品などの金型設計・製造に携わるが、2018年からは自社オリジナルのプラモデルブランドであり、プロ・アマを問わないクリエーターらと製品開発に取り組む「キャビコ」も展開している。キャビコは、『機動戦士ガンダム』のモビルスーツで知られるメカニックデザイナーの大河原邦男氏によるデザインのロボットを模型化するプロジェクトが原点となっている。リーマン・ショックを契機に自社の生き残りを模索する中で始まったもので、エムアイモルデは、過去の一時期にプラモデル用金型の生産に携わった経験を生かした。

 キャビコの取り組みの1つである小型プラモデル「チョイプラ」シリーズが人気を博したため、エムアイモルデをプラモデルメーカーやホビーメーカーだと思っている人も少なくないようだ。しかし同社は、プラモデル専業に業態を転換したわけではなく、今もなお自動車部品の金型設計製造を主な業務とする。

 宮城島氏は、今後自動車部品メーカーなどの顧客らにどのような価値を提供していけばよいのかと、展示会などに参加しながら、業界動向に対してアンテナを張り巡らしていた。その結果「環境対応」に自然と行きついたという。

 特に宮城島氏が目を付けたのが、植物由来の繊維を細かくした「セルロースナノファイバー(CNF)」や「セルロースファイバー」である。さまざまな用途が提案されて産官学連携での先行研究が進んでおり、プラスチックの補強にも利用可能で、自動車業界でも非常に注目されている。繊維をnmレベルにまで非常に細かくしたものをCNFといい、やや大きなμm級の繊維を含んだ状態で使う場合はセルロースファイバーということが多い。

 「いずれ、我々金型メーカーにもそれらへの対応が求められることは必至であると、容易に想像がついた」と宮城島氏は話す。実際に顧客から依頼されるタイミングはまだ先だが、そのときに対応するのでは遅い。未知の素材をいきなり使用して、短納期かつ高品質で精密な部品を製造するなどは不可能に近い。宮城島氏は、早いうちからCNFやセルロースファイバー入りの材料にトライして、いつでも金型製造を受注できるようにしておく必要があると考えたのである。

 CNFやセルロースファイバー入りの材料について成形の実証を始めるに当たっては、何らかの金型を使う必要がある。現在のエムアイモルデが、自動車部品メーカーから依頼を受けて設計製造する金型の多くは「売り型」と呼ばれるもので、完成すれば顧客の手元に渡ってしまう。手元にある金型は、顧客が開発中の案件に関する部品ばかりだが、それを成形テストに使うわけにはいかない。

 幸いにして、エムアイモルデの自社製品であるキャビコの金型は手元にある。宮城島氏は、その金型を使ってセルロースファイバー強化プラスチックの成形テストを始めた。一部は技術サンプル用のスピーカーグリルの自社金型を利用した。

 しかし、成形テストは一筋縄ではいかなかったという。