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 花王のテクノケミカル研究所(和歌山市)は、セルロースナノファイバー(CNF)を利用した水性のコーティング剤を開発した(図1)。コーティング剤を塗った表面は物が滑り落ちやすくなり、汚れの付着を防げる。家屋の屋根や太陽光パネルなどのメンテナンスの手間を軽減できるという。

図1 新開発のコーティング剤のイメージ
図1 新開発のコーティング剤のイメージ
(出所:花王)
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ニュースリリース

 新技術の開発に当たって同社が着目したのは、食虫植物「ウツボカズラ」だ(図2)。ウツボカズラは、底に消化液の入った壺(つぼ)へ昆虫を誘い込み、消化・吸収する。壺の内面が潤滑液で覆われており、それによって壺に進入してきた昆虫を滑らせて捕らえる仕組み。同社は、この構造を模倣した「滑液表面」をCNFによって実現した。

図2:ウツボカズラ
図2:ウツボカズラ
(出所:花王)
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 具体的には、CNFが持つ液体を保持する性質を応用。CNFが潤滑油を保持し、長期間にわたって微量の潤滑油を放出し続ける表面を目指した。だが、CNFが親水性である一方、潤滑油は疎水性のため、そのままでは両者はなじまない。そこで、同社が蓄積してきたCNFの表面を疎水化する技術を基に、疎水化CNFで潤滑油を強固に保持する技術を開発した。

 環境や作業者の健康に配慮し、コーティング剤には有機溶媒を用いない水性のものを採用した。ただし、滑液表面を実現するには疎水化CNFと潤滑油を水中に微分散(乳化)させなければならない。同社は、CNFが界面活性剤と同様の作用を持つ点に注目。強い力をかけて、疎水化CNFが潤滑油を覆った鞠(まり)のような状態にして、乳化に成功したという。

 開発したコーティング剤を塗布した表面を観察したところ、鞠のような構造体が積層した膜を形成していた(図3)。これにより同社は「CNFが潤滑油を保持し、長期間にわたって滑る性質を維持できる表面を作れた」とする。

図3 コーティング剤を塗布した板の顕微鏡画像(上)と膜のイメージ(下)
図3 コーティング剤を塗布した板の顕微鏡画像(上)と膜のイメージ(下)
(出所:花王)
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 併せて同社は、和歌山県・白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」の協力を得て、実験を実施。インコのケージにコーティング剤を塗布した板を入れて、未塗布の板と比較した。その結果、コーティング剤を塗った板からはフンが滑り落ち、付着を抑制できることを確認した(図4)。

図4 鳥のフンの付着を抑制する効果の検証
図4 鳥のフンの付着を抑制する効果の検証
(出所:花王)
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 同社によると、屋根への積雪で家屋が破損する、太陽光パネルに落ちた鳥のフンで発電効率が低下するなど、付着物はさまざまなトラブルを引き起こす恐れがある。物の付着を防げれば、そうした問題の発生を防げる上、除去するための労力とコスト、エネルギーも生じない。同社は、コーティング剤の開発で得た知見を生かして、用途に応じた提案を展開するとともに、コーティング剤の製品化を進める。

■変更履歴
花王のプレスリリースの写真に間違いがあったため、図2を差し替えました。現在は修正済みです。[2021/11/05 17:30]