PR

 「コネクテッドカーの普及を背景に、携帯通信技術などの標準必須特許(Standard-Essential Patent:SEP)を巡る訴訟が今後ますます激化する」。ゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所 弁理士・弁護士の松永章吾氏は、日本弁理士会が2021年11月2日に開催したコネクテッドカー訴訟に関する記者会見でこう述べた。

弁理士・弁護士の松永章吾氏
弁理士・弁護士の松永章吾氏
(出所:日本弁理士会)
[画像のクリックで拡大表示]

 同氏によると、携帯通信技術などに関するSEP訴訟は、2010年代にスマートフォン業界で多発した。当時はSEPの権利者が、実施者(スマートフォンメーカーなど)に対して不利なライセンスを強いる「ホールドアップ」と呼ばれる行為が問題視された。その結果、権利者による差し止め要求を制約する議論が多かったという。

 現在、携帯通信技術などのSEPは、コネクテッドカーをはじめとするIoT機器に広がっている。IoT機器では、SEPの実施者はスマートフォンメーカーなどの情報通信企業から、自動車メーカーなどの“異業種メーカー”に変わった。SEPの技術に必ずしも詳しくない企業が利用することから、当初は実施者に有利な前述の制約論が進むものと予想された。

 ところが、米中貿易摩擦などを背景に、「20年前後から権利者保護の流れが強まった」(同氏)という。例えば、20年8月にドイツのマンハイム地方裁判所でフィンランドNokia(ノキア)がドイツDaimler(ダイムラー)を訴えた訴訟では、ダイムラーに対する差し止め判決が認められた。これはSEP実施者がライセンスを受ける意思があると表明しさえすれば差し止めを免れる「ホールドアウト」と呼ばれる行為が問題視されるようになったためだという。

コネクテッドカー訴訟は今後ますます激化すると指摘する
コネクテッドカー訴訟は今後ますます激化すると指摘する
(出所:日本弁理士会)
[画像のクリックで拡大表示]

 こうしたコネクテッドカー訴訟の本質は、「情報通信業界と自動車業界の異なる商慣習の衝突」(同氏)だという。情報通信業界では完成品へのライセンスが一般的なのに対し、自動車業界では部品へのライセンスが多い。自動車メーカーでは特許保証された部品を調達することが当たり前になっているが、これは携帯通信技術などのSEPを握る権利者と相いれない。「残念ながら、現在の自動車メーカーは世界のルールの変化についていけていない」(同氏)と指摘した。