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 三菱電機は2021年11月9日に開催した重点成長事業説明会で、パワー半導体(パワーデバイス)事業の売上高を25年度に2400億円以上に引き上げると発表した。同事業の20年度実績は売上高が1480億円であり、1.6倍以上の成長目標となる。合わせて、営業利益率を10%以上とする目標を掲げた。20年度実績の営業利益率は0.4%でしかない。三菱電機常務執行役 半導体・デバイス事業本部長の齊藤譲氏は「チャレンジングな目標だとは思っていない」と自信をのぞかせた。

三菱電機常務執行役 半導体・デバイス事業本部長の齊藤譲氏
三菱電機常務執行役 半導体・デバイス事業本部長の齊藤譲氏
(撮影:日経クロステック)
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25年度に向けたパワー半導体事業の成長目標
25年度に向けたパワー半導体事業の成長目標
Siベースのパワー半導体は民生分野と自動車分野で大きく成長し、合計15ポイント増加して売上高の65%を占める見込みとする。(出所:三菱電機)
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 三菱電機が特に注力するのは民生分野と自動車分野である。民生分野では、小型軽量で低消費電力かつ高耐熱性という強みを持つ同社のSi(シリコン)ベースのパワー半導体を生かし、顧客を拡大させ市場のデファクトスタンダード化を狙う。家電のインバーター化率が上がり、パワー半導体の需要が拡大するのに合わせる形だ。省エネ規制強化によって拡大を続けるエアコン圧縮機市場を中心に据えつつ、新市場として冷蔵庫やエアコンファン、洗濯機ファンなどの市場を開拓していく。

民生分野における新市場開拓の取り組み
民生分野における新市場開拓の取り組み
(出所:三菱電機)
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 自動車分野でも、小型軽量で放熱性が高く、高効率なため航続距離を延長できることを訴求して、同社のSiベースのパワー半導体の採用を拡大させていく。既に複数社で採用されており、今後、採用車種の増加により売り上げの拡大を見込む。自動車向け市場は電動化の促進により、20年度から25年度にかけて年平均成長率(CAGR)約23%と高い成長率を見込む。英国の調査会社LMC Automotiveによれば、特に小型・中型の電気自動車(EV)が中心的に伸びると予測され、Siベースのパワー半導体の需要はより大きくなるとみられる。

 なお、大型EV市場の拡大に合わせて、急速充電に対応可能なSiC(シリコンカーバイド)ベースのパワー半導体の開発製造も加速させていく。これまでは6インチSiCウエハーの製造が中心だったが、生産性の向上に向けてSiCウエハーの8インチ化を検討しているという。

電気自動車市場動向とパワー半導体市場動向の関連性
電気自動車市場動向とパワー半導体市場動向の関連性
(出所:三菱電機)
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Siウエハー生産能力を2倍へ、1300億円投資

 パワー半導体事業の拡大のため、三菱電機は強気の設備投資を行う。「21年6月時点の21年度~25年度の中期経営計画では設備投資額を約1000億円と発表した。今回そこから300億円を増額して1300億円とした」(齊藤氏)。

 設備投資において、三菱電機は主に前工程であるウエハー生産の増強に重きを置く。25年度までに20年度比で2倍の生産能力を達成する計画だ。例えば20年6月にシャープから取得した福山工場では、以前より生産効率を高めた8インチSiウエハーの製造ラインを構築し21年11月から試験的に運用を始めている。今後も製造ラインを拡大していく予定だ。

 福山工場では、8インチSiウエハーの製造ラインの増強と並行して、12インチSiウエハーの製造ライン構築にも着手する。12インチのウエハーの製造ラインが構築できれば、ウエハーあたりの取れ数は8インチ品の製造ラインと比較して2倍以上となる。少品種大量生産において、激しい需要増への対応力がさらに高まる見込みだ。1300億円の投資のうち約3割を12インチ品の製造ラインに、残りを8インチ品の製造ラインに費やす計画で、24年度には福山工場で12インチSiウエハーの量産開始を目指す。

 12インチラインの実用化では、欧米のパワー半導体メーカーが先行しており、既に操業を開始している。齊藤氏は「これまで多品種・少量生産を中心に8インチラインを使ってうまくやってきた。今後、自動車や民生の需要が大きくなる中で、1つの物を大量生産するのが12インチラインの目的になる。24年度の量産開始は、他社に遅れているとは考えていない」と話した。

パワー半導体事業における設備投資計画
パワー半導体事業における設備投資計画
(出所:三菱電機)
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