カシオ計算機は宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、将来の宇宙探査での活用を目指し、同社のカメラ可視光通信技術を使った高精度位置測位システム「picalico(ピカリコ)」の実験を2021年11月29日から12月3日まで、サーティーフォー相模原球場(神奈川県相模原市)で実施した。
JAXAは30年代以降に、月面に基地などのインフラを構築し、持続的な探査を目指す構想を掲げている。しかし、月面では位置測位に地上用のGNSS(全球測位衛星システム)は利用できず、当面、月面用に構築される見通しがないため、月面探査車などが自車位置を正確に把握するために他の技術が必要になる。さらに「月面は砂丘が連なったような景色なので、一般に画像認識を使って位置を測定することも難しい」(カシオ)
カシオはJAXAの宇宙探査イノベーションハブが行った「第6回研究提案募集(20年6月1日~7月10日実施)」に応募し、同社のpicalicoを活用した提案が、自動制御のための位置計測・推定技術および自動・自律型探査技術として共同研究テーマに採択された。
picalicoはLED灯の発光色を変化させて、信号を送信する独自の可視光通信を使用する。信号は3色(赤・緑・青)の発光色を24回または12回切り替える色変化のパターンで構成され、そのパターンが1つのID情報になる。既に工場の自動搬送機や台車、倉庫のフォークリフトなど作業動線の分析や所在管理に活用できる高精度の位置測位システムとして提供されている。
例えば、フォークリフトなどの現在位置を測定するには、車体に搭載したカメラで天井や壁に設置した複数のLED灯を撮影し、ID情報を受信。それぞれのID情報にひもづけられた座標を基に、位置を算出する。測定精度はLED灯の設置密度や設置方法に依存し、最高で1~5cmが可能だが、例えば常にカメラの画角に2個以上のLED灯が入る配置の場合に、±0.5~±1mとしている。
なお、LED灯が信号として送信する色変化のパターンは約100万通りの組み合わせがあるほか、カメラ1台で最大100個の信号を同時に受信できる。「現在の製品は、工場や倉庫などの屋内を想定した測位システムとして提供しており、晴天の屋外での位置測位は難しい。しかしながら、picalicoの原理的には問題はなく、カメラや発光構造の工夫で対応できると考えている」(カシオ)とする。
今回の実験では、野球場を月のクレーターに、フィールドを移動するトラクターを月面探査車に見立てた。産業用カメラをトラクターに設置し、観客席に設置した複数のLED灯から送信する可視光通信の信号を捉えて、それらから算出する位置情報データの精度を確認する。LED灯は合計で10~20個程度を使う。
「現在の屋内測位を想定した製品では、広い場合でもLED灯の設置間隔は数十mスパン。これに対して月面では屋外かつ、1つのエリアでLED灯の設置間隔が数百mスパンになるとみられる。このため、月面での使用に向けては新たな課題が多く見つかると考えている」(カシオ)としている。