日本原子力研究開発機構(JAEA)は2021年12月24日、大洗研究所(茨城県大洗町)で研究を進める「連続水素製造試験装置」を公開した(図1)。現在の水素の製造能力は1時間あたり0.1m3(100リットル)。2030年代に高温ガス炉(HTGR)を熱源とした水素製造技術の確立を目指す。
燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素は、カーボンニュートラルの実現に向けた次世代のエネルギー源とされ、燃料電池自動車や水素還元製鉄などで需要が見込まれる。しかし、水素の製造方法として現在主流の水蒸気改質法などは、その過程でCO2を排出するため、全体でみるとCO2の削減効果が薄い。
一方、今回JAEAが公開した試験装置は「ISプロセス」と呼ばれる手法を用いる。ISプロセスは水素の生成過程でCO2を排出しない。ヨウ素(I)、硫黄(S)、水(H2O)を用いた複数の化学反応を組み合わせて水素を得る。ヨウ素と硫黄をプラント内で循環させながら、水から水素を生み出す(図2)。
JAEAはおよそ20年にわたりISプロセスの実用化に向けて研究を進めてきた。同プロセスでは硫黄が循環する際の硫酸(H2SO4)の分解反応で900℃の高温を必要とする。現在はこの熱源に電気ヒーターを用いて実験を進めているが、将来は高温ガス炉が生む熱の利用を目指している。腐食性の高い物質を高温で扱うため、耐食性や耐熱性に優れたプラント機器の研究開発が続いている。
熱源として高温ガス炉を用いるのは、稼働時にCO2を排出しないため。核分裂反応で生じる熱をヘリウムガスによって原子炉の外に運び出し、隣接地に建設する水素製造施設に届ける計画だ。ISプロセスと高温ガス炉との組み合わせによって「カーボンフリー」な水素を製造する。
JAEAは21年7月、大洗研究所内にある高温ガス炉の試験炉「高温工学試験研究炉(HTTR)」の運転をおよそ10年ぶりに再開している。水素製造設備とHTTRを安全に接続するための技術検証を進め、40年ごろまでに1時間あたり100~1000m3の水素製造を目指す。その後、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、民間への技術移転を進める考えだ。