三菱電機は2022年2月28日、3Dデータや人工知能(AI)を活用した「ティーチングレスロボットシステム技術」を開発したと発表した。同社のAI技術「Maisart(マイサート)」の音声認識AIを利用し、ユーザーがタブレット端末から声で作業指示を伝えると、多関節ロボットの動作プログラムを自動生成できる。「音声による作業指示は産業用ロボットメーカーとしては初」(同社)という。アームの軌跡を自動で最適化する機能なども備えており、専門知識がなくても動作プログラムを作成できる。
生産ラインへの産業用ロボットの導入に当たっては、一般にロボットやプログラムに詳しい専門家による動作プログラムの作成(教示、ティーチング)が必要となる。実作業で最適な動作をさせるためには手間や時間がかかり、これが導入のハードルの1つとなっている。
開発した技術を用いれば、現場で実作業に携わる人が簡単に動作プログラムを作成できる上、動作の自動最適化機能によって、多大な時間を要する動作の繰り返しテストや調整、実機による試運転などのプロセスを大幅に簡略化できるとしている。生成したプログラムの動きは、タブレット端末上で3Dモデルを使ったシミュレーションとして確認可能だ。
3Dセンサーやビジョンセンサーの情報を基に把持対象物や周囲の状況を検知・認識し、動作を調整するのも特徴の1つだ。センサー類は安価な一般的なものが利用できるという。周辺機器やセンサー類との連携を一元的に管理できるよう、IoT(Internet of Things)基盤「Edgecross」と連携するための統合管理システム「ROS-Edgecross連携機能」も開発した。
具体的には、3Dセンサーで取得した画像や距離情報などを基に軽量3Dデータを生成し、ロボットの周囲にある番重や把持対象の商品などを操作画面上に再現したり、アームの軌道生成時の干渉判定に利用したりできる。
作業環境を3Dデータで再現
ロボットのハンドが、把持対象物をつかみやすい角度や開口幅、力加減を算出する「把持認識AI」も備える。同AIを用いて適切な把持位置を割り出すと同時に、生産ライン上に設置したビジョンセンサーによって、ラインを流れてくる商品などの対象物を瞬時に検出し、ロボットがスムーズに動作するようリアルタイムで動作を補正するといった使い方が可能だ。つかんだ際の商品の変形や傾きも検知できるので、不定形でつかみづらい対象物がバラ積みされた状況にも対応できるという。
また、周囲と干渉せずかつ最適な加減速パターンを算出する機能を実装。ロボットの動作を最適化することにより、「人の作業速度と同等での作業を実現できる」(同社)。部材を把持し、指定の場所に置くという作業1回当たりの時間は最短2秒程度という。細かな動作設定が可能な自動制御プログラムと、人と同等な動作スピードの実現により、従来は人が行うしかなかった緻密な作業を代替できるようになるとしている。
今回開発したシステムの主要なターゲットの1つは、従事者が多くかつ人手不足に悩んでいる食品分野だ。デリケートで細かな作業が多いため食品生産ラインではロボットによる自動化が難しいとされてきた。加えて、現場で実作業に携わる作業者にとってはロボットのティーチングや操作が難しい、品種・品目の切り替えが頻繁に発生する、といった点も導入のハードルとなっていた。ロボットによる作業が人に比べて遅いのも難点だった。同社は、今回の技術によってそうした課題を解決できるとみている。
今後同社は、開発した技術の高性能化および検証事例の追加を進めながら、23年以降の製品化を目指す。食品分野のほか、物流や電機・電子の分野など幅広く提案していく考えだ。