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 横河電機とJSRは、人工知能(AI)が化学プラントを35日間(840時間)にわたって自律制御することに成功したと発表した。両社は2022年1月17~2月21日、国内にあるJSRのプラントの蒸留塔内で実証実験を実施し、強化学習AIが安全に適用できることや、従来の手法では自動化できなかったプロセスを強化学習AIが制御できることを確認した(図1、2)。

図1 実証実験を実施したJSRの化学プラント
図1 実証実験を実施したJSRの化学プラント
(出所:横河電機、JSR)
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図2 実証実験の概要
図2 実証実験の概要
(出所:横河電機、JSR)
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* 横河電機のニュースリリース: https://www.yokogawa.co.jp/news/press-releases/2022/2022-03-22-ja/ * JSRのニュースリリース: https://www.jsr.co.jp/news/2022/20220322.html

 実証実験の対象となった制御プロセスは蒸留塔内にある。蒸留塔では、沸点の近い物質A・Bを加熱して分離する際、希望の物質Aを理想的な状態で高効率に取り出せるように複数のバルブを操作して制御しなければならない。制御に当たっては、規格外品が発生しないように液面レベルを適切な状態に保ちつつ、消費エネルギーを抑えるためにできるだけ排熱を熱源として活用する必要がある。

 だが、このプロセスは、降雨や降雪などの急激な外気温の変化が大きな外的要因(外乱)となって制御の状態が乱れやすい。PID制御や高度制御(Advanced Process Control:APC)といった既存の制御手法が適用できず、従来は熟練の運転員がバルブの操作量を自ら考えて入力する手動制御でしか対応できなかった。

 実証実験では、横河電機と奈良先端科学技術大学院大学が共同で開発した強化学習AIを導入した。併せて、横河電機の製品技術として、プラントシミュレーター「OmegaLand」〔オメガシミュレーション(東京・新宿)〕や統合生産制御システム「CENTUM VP」(横河電機)、OPCインターフェースデータ管理パッケージ「Exaopc」(同)、データ記録ソフト「GA10」(同)を活用した。

 AIの導入に際して横河電機とJSRは、[1]AI制御モデルの生成、[2]AI制御モデルの信頼性・妥当性の評価、[3]実プラント制御の3段階で操業の安全を確認した(図3)。まず[1]では、OmegaLandを利用してプラント設計情報から対象のプラントモデルを作成。さらに、AIがOmegaLand上で学習し、制御モデルを生成した。[2]では、AI制御モデルに過去の運転データを与えて、安定的に動くか、異常時にどのような制御を実行するのかを確認。加えてリアルタイム操業データも与え、安定的に動くか、プラントが精製する製品の品質は許容範囲かも確認した。AIが示す制御方法については、熟練の運転員も妥当性を認めたという。[3]では、既存のインターロックなどの各種安全機能で安全を確保した上でCENTUM VPと統合し、プラントの操業に組み込んで運用面の安全も担保した。

図3 操業の安全確保
図3 操業の安全確保
(出所:横河電機、JSR)
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 実証実験の結果、AI制御システムにより35日間の連続制御を実現した。降雨・降雪もある中、AIが外乱を考慮しながら品質の維持と省エネルギーを両立して制御することで、品質の安定化と収量の増加、省エネを達成した。精製した製品は品質基準をクリアし、既に出荷しているという。

 CENTUM VPに統合したAI自律制御によって、人の介在は監視のみで済む。運転員の負担を軽減できる上、誤操作も減らせるため、安全性も高まる。排熱の活用により二酸化炭素排出量の削減も可能だ。良品のみを生産できるので、規格外品の発生を原因とする燃料や人件費などのコストと時間的損失もなくせる。

安全担保しつつ自律制御が可能に

 両社によると、プラントは物理的・化学的な事象が複雑に影響する中で制御するのが難しく、熟練の運転員が介入しなければならないプロセスも多い。PID制御やAPCを組んで自動化しても、外乱への対応のために自動制御を中断し、運転員が設定値や出力値を変更しなければならないケースもある。そのため従来、手動介入せざるを得ない状況に対して、高いレベルの安全性を担保しつつ少ない手間で自律制御に移行させることが課題になっていたという。

 実証実験で得られた成果により、この課題の解決が期待できる。横河電機は今後、プラントの自律化を実現する製品・ソリューションの早期の提供を目指す。一方、JSRは他工程や他プラントへのAIの応用を検討する。

 実証実験に用いたAIは「FKDPP(Factorial Kernel Dynamic Policy Programming)」と呼ぶアルゴリズムを採用。既存の制御手法では自動化できなかったプロセスに対して、AIが自ら最適な制御方法を導き出し、経験していない状況でもある程度自律的に制御できるロバスト性を持つという。「品質と省エネの両立」のように相互干渉する目標にも対応できるとしている。

 FKDPPは2018年に開発され、IEEE国際学会で「プラントへ活用可能な強化学習技術」と認められた。19年、プラントを模した制御トレーニング装置での実験に成功し、20年4月にはプラント全体を対象にしたシミュレーター上での制御の可能性を確認するなど、横河電機と奈良先端科学技術大学院大学は適用範囲を理論から実用へと広げてきた。

 なお、今回の実証実験を含むプロジェクトは、経済産業省の2020年度「産業保安高度化推進事業費補助金」に採択された。同プロジェクトの実施期間は20年8月~22年2月。