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 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と新構造材料技術研究組合(Innovative Structural Materials Association:ISMA)は2022年4月4日、ISMAがNEDOの事業で開発した難燃性マグネシウム(Mg)合金で新幹線用の客室床板を製作し、JR東日本のE956形式新幹線高速試験電車「ALFA-X」で性能試験を実施したと発表した(図12)。21年10月~22年3月に高速走行試験を含む実際の運用環境で試験を行い、遮音性を維持しながら約23%の軽量化を実現できることを確かめたという。

(出所:NEDO、ISMA)
図1 難燃性Mg合金で製作した床板
新幹線車両に設置し、床敷物を取り付ける前の状態
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図2 JR東日本の次世代新幹線試験車両「ALFA-X」
図2 JR東日本の次世代新幹線試験車両「ALFA-X」
左が1号車、右が10号車(出所:NEDO、ISMA)
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* NEDOとISMAのニュースリリース: https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101528.html

 難燃性Mg合金は、Mg-アルミニウム(Al)系の汎用Mg合金にカルシウム(Ca)などを数%(質量%、以下同)添加して発火温度を200~300℃上昇させ、大気中での溶解・鋳造を可能にしたもの。ISMAはNEDOの事業において、従来の難燃性Mg合金(AZX611)に比べて高性能かつ低コストの合金を、レアアースを用いずに実現した。具体的には、配合比でAlが4%、Caが1%の「AX41合金」や、Alが9%、亜鉛(Zn)が1%、Caが2%Caの「AX92合金」、Alが8%、Znが1%、Caが1%の「AX81G合金」を開発している。

 性能試験では、客室床板の面板にAX41合金の圧延材を、床板の外周の枠材にAX41合金の押し出し材を、補強材にはAX92合金の押し出し材を使用した(図3)。面板については、国内では板幅が約300mmを超える圧延材は造れないため、摩擦撹拌(かくはん)接合(FSW)によって4枚の圧延材から幅1040×長さ2930mmの広幅圧延材を製作。表に厚さ1.0mmの面板を、裏に厚さ0.5mmの面板を使い、それらで発泡樹脂をはさんで面材に仕上げた。枠材と補強材はTIG溶接で、面板と枠材は接着剤で接合した。

図3:使用した難燃性Mg合金と適用箇所
図3:使用した難燃性Mg合金と適用箇所
(a)は客室床板(1枚分)で、(b)は広幅のAX41合金をFSWで接合したもの。(c)はAX41合金・AX92合金で製作した枠材と補強材(出所:NEDO、ISMA)
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 こうして出来上がった床板を、ALFA-Xの中間車両に敷き詰め、全長約9×幅約3mの客室床を完成させた。この大きさは、Mg合金製圧延材を鉄道車両に適用した例として「世界最大級」(NEDO、ISMA)という。客室床板1枚当たりの質量は約20kgで、一般的なAl合金製床板の約26kgより約23%軽い。1両当たりの客室床全体では、約50kgの軽量化となった。

 試験では、[1]燃焼試験、[2]接着試験、[3]局所への耐荷重試験、[4]垂直荷重試験、[5]音響試験を実施した。[1]により、難燃性Mg合金製の客室床板は「不燃性」の判定を取得。[2]では、客室床板の組み立てに当たり、難燃性Mg合金の表面処理や接着膜厚をパラメーターとした。これによって最適な表面処理と接着膜厚を見いだしたという。

 [3]では、ハイヒールのかかと部分の先端を模した貫通試験や、圧痕が発生する荷重の測定を実施し、従来のAl合金製床板と同等以上の耐荷重になることを確認した。[4]は、乗客の荷重を模した試験(図4)。客室床板として使うのに十分な強度を持つことを確かめた。さらに[5]として「透過損失測定」を実施し、床下からの騒音を遮る機能を確認。実験室での測定の結果、難燃性Mg合金製床板の透過損失(遮音性)は、従来のハニカム構造のAl合金製床板と同等だった(図5)。加えて、製作した客室床板をALFA-Xに適用して室内の騒音を測定したところ、Al合金製床板に比べて騒音が増加しないことが確認できた。

図4:垂直荷重試験の様子
図4:垂直荷重試験の様子
(出所:NEDO、ISMA)
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図5:透過損失測定の結果
図5:透過損失測定の結果
(出所:NEDO、ISMA)
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 新幹線をはじめとする高速鉄道車両の車両構体や内装部品には、主にAl合金が使われている。しかし、鉄道の高速化と省エネルギーの重要性が増す中で軽量化へのニーズが高まっており、比重がAl合金より30%以上小さなMg合金の早期実用化が期待されているという。だが、Mg合金の展伸材は難燃性や耐食性、成形性などが低いため、電子筐体(きょうたい)や機械部品などの小型部材には使われているものの、大型構造物に適用される例は少ない。

 そうした中でNEDOは、14年度から「革新的新構造材料等研究開発」事業を展開しており、同事業においてISMAは、高速鉄道車両への適用を目的として難燃性Mg合金の開発に取り組んできた。16年には難燃性Mg合金を使った車両構体の側構体部分のパネルを試作。18年には、高さ2.9×幅3.4×長さ1.0mと現行の新幹線車両と同一サイズの断面を持つ高速鉄道車両の部分構体の試作にも成功し、難燃性Mg合金で大型構造物を造れることを実証した。

 20年には、さらに大きな高さ2.9×幅3.4×長さ5.0mの部分構体を製作するとともに、設計寿命20年間のトンネル出入り分に相当する繰り返し荷重を模擬した気密疲労試験を実施。これにより、難燃性Mg合金が長期間の運用に耐えられることを実証した。

* 21年6月17日付、NEDOなどのニュースリリース: https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101440.html

 ISMAは、こうした開発成果を活用し、Mgの軽量性を生かした用途の開拓を続け、社会実装に結びつける。さらに今回の試験の結果に基づき、新幹線の車両構体や客室床への難燃性Mg合金の本格的な適用を目指す。

 なお、今回の床材の開発と製作、性能試験は、以下のような体制で実施した(図6)。産業技術総合技術研究所(産総研)と長岡技術科学大学がMg合金の開発を担当。押し出し材を三協立山と不二ライトメタル(熊本県・長洲町)が、圧延材を日本金属がそれぞれ製作した。総合車両製作所(横浜市)と木ノ本伸線(東大阪市)、茨城県産業技術イノベーションセンターが加工・接合技術を、産総研が接着技術を持ち寄り、川崎車両(東京・港)が床板を設計・製作・評価した。このうち産総研と三協立山、不二ライトメタル、日本金属がISMAの組合員。これらの企業・機関を含めてISMAには、40企業と1財団法人、2国立研究開発法人、2大学が参加している(21年4月1日現在)。

図6:客室床板の設計・製作・評価体制
図6:客室床板の設計・製作・評価体制
(出所:NEDO、ISMA)
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