「ライバルは弾切れを起こしたが、我々はそれを一切起こさずに拡販してシェアを高めた」──。ダイキン工業社長兼最高経営責任者(CEO)の十河政則氏が、2022年3月期(2021年度)の好決算の理由を語った。半導体・電子部品不足と、原材料および物流費の高騰の逆風をつき、同社の売り上げは初めて3兆円を突破。営業利益(3164億円)も過去最高を記録した。
半導体・電子部品の逼迫により、競合企業は「弾切れ」、すなわち十分な製品(空調機)を市場に供給できなかった。それを横目に、ダイキン工業は販売と生産、調達、物流の各部門が一体となって製品の供給を確保し、販売の拡大とシェアの向上につなげた。
半導体・電子部品を確保するために、同社は在庫に対する考え方を一時的に変えた。本来は在庫を極力抑える一方で、リードタイムをできる限り短縮して、市場の需要変動に強い生産方法を採っている。ところが、足元の半導体・電子部品不足をダイキン工業は「緊急事態」と捉え、あえて在庫を多く持つ方針に変えた。加えて、逼迫する可能性が高い半導体・電子部品については、代替品の調達や開発を進めた。
こうした取り組みが功を奏し、例えば日本市場では、家庭用空調機のシェアを3ポイント、業務用空調機のシェアを4ポイントも伸ばし、競合他社を引き離して共にトップシェアの地位を強固なものとした。
米国市場で5度の価格の引き上げ
原材料や物流費の高騰に対しては、「戦略的売価政策」を打ち出した。これは単なる製品の値上げではなく、換気機能を搭載して空気の質を高めるなど付加価値を付けたり、開発期間を前倒しして新商品を出したりして価格を引き上げる方法だ。例えば、米国市場では「景気が良くて需要が豊富であることから価格転嫁しやすい」(十河社長)と判断し、5回におよぶ価格の引き上げを実施した。
一方で、コスト削減にも力を入れた。具体的には、材料の置換や基幹部品の標準化、内製化を進めている。
2022年度も半導体・電子部品の不足に対しては「目下、めどがついている。逼迫懸念の高い部品は代替調達・開発を進め、安全在庫を持つことに加えて、国内と海外(の両工場)によるダブルエンジン生産のメリットを生かした強じんな生産供給力の構築につなげていく」と十河社長は言う。
2022年度の計画は、売上高が3兆3800億円、営業利益は3400億円と、共に過去最高の更新を狙う。