三菱電機は2022年5月17日、宇宙空間において 3D プリンターで人工衛星アンテナを製造する技術を開発したと発表した(図1)。無重力かつ真空という環境下で造形できる材料と装置を開発している。地上から打ち上げる部材が少なくて済むため、小型衛星にも大開口アンテナを搭載できる。
開発した3Dプリンターは、紫外線硬化樹脂をノズルから押し出し、吐出位置を相対的に変化させて積層造形していく。真空中で適切な粘度を保ち、紫外線による硬化安定性を持つように配合した紫外線硬化樹脂を開発した。具体的には、基礎材料である高分子量オリゴマーに真空オイルを可塑剤として加え、硬化阻害剤と光硬化開始剤を適切に配合した。
これにより、真空中で通常の紫外線硬化樹脂を使った場合に起きる、低圧が引き起こす樹脂の蒸発や、硬化阻害の役割としての酸素がないことによる急速な硬化を防止。真空中での押し出しと硬化に適した安定性を実現している。同社は、真空中(0.2kPa以下)で試作したアンテナが、宇宙空間での使用に十分な400℃の耐熱性を持つことを確認している(図2)。
造形装置で樹脂の吐出位置を制御する機構は、アンテナの部材である支柱やアンテナの角度調整用モーターと共用化した。樹脂は、アンテナの中心部を起点に広がっていくように積層する。この起点は支柱に対して1軸で動き、内部には2軸のモーターを内蔵しており吐出位置を制御する仕組みだ(図3)。
これにより、数十cmサイズの小型衛星でも開口の大きなアンテナを搭載可能となる。例えば、小型衛星の分野で広く使われている 3U CubeSat(100×100×300 mm)仕様の小型人工衛星での利用を想定した直径165mmのアンテナ反射鏡を大気中で試作したところ、Ku 帯(13.5GHz)で 23.5dB の利得を確認している。
こうした仕組みにより、軌道投入後の振動や衝撃などを考慮したアンテナ構造やアンテナ展開用の部品が不要となるため、人工衛星を軽量化でき、打ち上げコストの低減につながる。また、樹脂は太陽光の紫外線で硬化させるため、低消費電力で造形できる点もメリットだ。
近年、民間事業者による人工衛星をはじめとする宇宙機器打ち上げビジネスが立ち上がりつつある中、研究機関や民間企業が主導する数十cmサイズの小型の人工衛星が登場している。人工衛星のアンテナは、高利得かつ広帯域幅を実現するために開口を大きくする必要があるが、従来は打ち上げロケットのフェアリングや人工衛星のサイズの制約があった。また、打ち上げ時や軌道投入時の振動や衝撃に耐えられるようにする構造も必要だった。