日本自動車工業会(自工会)は2022年5月19日、新たな役員体制が正式に発足したことを受け、新体制で取り組む重点テーマについて改めて説明した。
現在、自動車業界は新型コロナウイルス感染症や半導体不足、自然災害の影響に加え、ロシアによるウクライナ侵攻、資源価格の高騰といった課題に直面している。自工会会長の豊田章男氏(トヨタ自動車社長)は「こうしたリスクのあるときこそ、未来に向けた変革を止めない強い意志が必要」と訴えた。
変革の中でも最大のテーマが、カーボンニュートラル(炭素中立)の実現である。自工会ではこれまでカーボンニュートラルを正しく理解することの重要性を繰り返し訴えてきた。「敵は炭素、内燃機関ではない」「技術力を生かすには、規制で選択肢を狭めるべきではない」といった内容である。
電気自動車(EV)一辺倒ではなく、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)などを含む「電動車フルラインアップ」や、カーボンニュートラル燃料を含む幅広い技術開発が重要との考えについては、「周囲の理解が深まってきた」(同氏)とする。自工会では、会員各社の得意分野に応じてさまざまなタスクフォースを立ち上げ、カーボンニュートラルに向けて多面的な活動を進めていく方針である。
カーボンニュートラルはエネルギー政策とセットで議論する必要があることも改めて強調した。「カーボンニュートラルはエネルギーを作る、運ぶ、使う、のすべての分野で達成するもの。エネルギーを使う側(自動車)ばかり規制しても解決しない。自動車だけを悪者扱いするようなことは勘弁していただきたい」(同氏)。
自工会副会長の三部敏宏氏(ホンダ社長)は、「カーボンニュートラルは非常に長期にわたるチャレンジであり、進化の過程にある技術もたくさんある。特に、二酸化炭素(CO2)を正しく測り、見える化する技術と、CO2を減らす活動の両面が必要」(同氏)と説明した。見える化に関しては「ライフサイクル全体でのCO2排出量の算出に関し、国際的な技術ガイドライン策定に向け、日本が議論をリードできるよう連携して取り組んでいる」(同氏)という。
このほか、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシア事業から撤退する自動車メーカーが出始めている点については、「我々の決断や判断が、自動車産業を支えている世界中のさまざまなステークホルダーから理解と共感を得られるか、状況を注視していく」(豊田氏)と述べた。ステークホルダーの中には、車両の保有者も含まれ、その数は世界で約5億人に上るという。
また、23年の開催を予定する「東京モーターショー」については、「JAPANオールインダストリーショー」という新名称を発表した。「モビリティーの枠を超えて、日本のすべての産業が連携し、さらにスタートアップ企業も巻き込んでいくことで、多くの人が集まる場にしたい」(同氏)と話す。