日本航空(JAL)は成田空港の制限エリア内でレベル3相当の自動運転けん引車(トーイングトラクター)の本格運用を始め、2022年6月10日に報道関係者へ公開した。第2ターミナルの本館とサテライトの間の往復約1.2キロメートルで、ゴルフバッグや大型楽器、自転車など大型の預け入れ手荷物の搬送に活用する。同社によると、手荷物搬送用の自動運転けん引車の本格導入は国内の航空会社で初という。

JALが成田空港内で本格運用を始めた、フランスTLD製の自動運転トーイングトラクター「TractEasy」
JALが成田空港内で本格運用を始めた、フランスTLD製の自動運転トーイングトラクター「TractEasy」
(写真:日経クロステック)
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 自動運転けん引車はフランスTLD製の「TractEasy」を2台導入。自動運転ソフトウエアはフランスのEasyMile(イージーマイル)が開発している。周辺の障害物を検知して障害物との距離を測るため、車両前面の下方左右と上方中央、車両天井の2カ所の計5カ所にLiDAR(Light Detection and Ranging)を備えている。併せてGPSや走行距離計、慣性計測ユニットなども使用し、発着点や走行経路、経路上の一時停止箇所などをあらかじめ設定している。運用上の最高速度は時速15キロメートルで、成田空港内の一般車両の制限速度と同じとしている。実証実験以降の改良点として、降雨時に雨粒でLiDARのレーザー光が乱反射するのを防ぐためのカバーを設けたほか、路面の段差でLiDARの走査に誤差が生じる問題を改修したり、交差点などで対向車を認識しやすくするためLiDARの走査範囲を広げたり、加減速をスムーズにしたりしている。

 JALによる成田空港でのけん引車の自動運転を巡っては、2019年10月に始めた実証実験において、本格運用で想定される問題点の洗い出しと解決などを実施していた。2021年3月に本格運用の準備が整っていたが、新型コロナウイルス禍で第2ターミナルのサテライトの運用が停止されていたため、実際の本格運用開始は2022年5月25日となった。現状では1日10往復程度だが、今後国際線の運航便が回復すれば自動運転けん引車の運行頻度も増える見通しとしている。国土交通省は空港内のけん引車について、2025年をめどにレベル4相当の自動運転を導入するというロードマップを公表しており、JALも今回導入したレベル3相当の車両で自動運転の実績を積み重ねて今後のレベル4導入を目指す方針だ。

 このほかJALは、天ぷらなどに使った廃食用油を原料とするバイオ燃料100%の代替軽油(B100燃料)をけん引車に使用する実証実験を実施しており、この様子を報道陣に公開した。B100は軽油を燃料とする一般的なけん引車でそのまま使用できるとされており、JALの試算では軽油をB100燃料に替えることで、二酸化炭素の排出量をけん引車1台あたり年間6トン程度削減できる見通しだ。JALでは2022年5月16日から2023年3月末まで豊田通商からB100の供給を受け、成田空港内のけん引車のうち1台をB100のみで運用。燃料タンクのゴムパッキンをはじめとする車両の各部品に影響がないかなどを検証する。

バイオ燃料100%の代替軽油(B100燃料)でけん引車を運用する実証実験の様子。実証実験の期間中、けん引車のうち1台をB100専用とする
バイオ燃料100%の代替軽油(B100燃料)でけん引車を運用する実証実験の様子。実証実験の期間中、けん引車のうち1台をB100専用とする
(写真:日経クロステック)
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