東京大学発スタートアップのEVERSTEEL(東京・文京)は、東京製鉄と共同で実施していた鉄スクラップを自動解析する人工知能(AI)システムの実証実験を完了させたと発表した(図1)。同システムは、鉄スクラップの検収作業の効率化と、検収員ごとの査定のバラつきの低減を目指したもの。EVERSTEELでは実証実験の結果を基にβ版の開発を始める。
* EVERSTEELのニュースリリース: https://eversteel.co.jp/news/20220614-1実証実験は、東京製鉄の宇都宮工場(宇都宮市)で実施した。EVERSTEELが検収員のスキルを定量化し、それに基づいてAIシステムを開発。同工場で等級査定と異物検出に適用して、精度を確認した。
鉄スクラップの等級査定には長年の経験と高度なスキルが求められる上、客観的な査定を安定して実施するのが難しいため、査定のバラつきは業界全体で課題となっている。そこで実証実験では、実際に荷下ろしされたスクラップに対する検収業務を分析し、査定のバラつきを定量評価した(図2)。EVERSTEELの担当者が1カ月間にわたり工場に滞在してスキルの定量化に取り組み、AIシステムの開発において目標精度値の1つに設定した「検収員の査定精度」の測定を完了したという。
それを基に開発したAIシステムを、トラック1台に積載されたスクラップに対する等級査定に適用した。その結果、単一の等級の鉄スクラップで構成されるトラックだけでなく、複数の等級の鉄スクラップが混在するトラックに対しても、同システムが検収員のスキルに近い精度で検収できることを確認した(図3、4)。
さらに、鋼材中に混入した不純物や、炉内で急反応を引き起こす密閉物といった「異物」の検出にもAIシステムを適用した。その結果、トランプエレメント(製鋼プロセスでは除去が難しい不純物元素)の代表格である銅(Cu)を含むモーターについて、高い精度で検出可能なことを確認できたという(図5)。
同システムの本運用に向けて、EVERSTEELは2022年6月中にβ版の開発を進める。β版では、実際の荷下ろし中の鉄スクラップをリアルタイムでAI解析し、結果を作業者にフィードバックする。β版の運用を通してデータを収集し、AIの解析精度を向上させるとともに、使い勝手の改善も図る計画。
将来は、現場に設置したカメラで撮影した画像をリアルタイムで解析できるようにする。AIシステムが検収員によるスクラップの等級判定を補助する他、作業負担の軽減や、査定のバラつきの低減、熟練作業者からの技能承継も支援する。加えて異物検出も実施することで、さまざまな非鉄金属の混在による品質低下や密閉物の混入による事故の発生を防ぐ。
EVERSTEELによると、鉄鋼部門が排出する二酸化炭素(CO2)の量は日本全体の約14%を占めており、排出抑制のために、現在の主流である高炉法に比べてCO2排出量を80%以上減らせる電炉法の拡大が求められている。東京製鉄は、国内最大の電炉メーカーであると同時に、その主原料として年間300万t以上の鉄スクラップを購入する「国内最大」(EVERSTEEL)の鉄スクラップ購入企業。鉄スクラップ自動解析AIシステムによって検収業務の効率化が見込まれることから、「ノウハウ・知見を惜しみなく提供することで、早期に本運用につなげていきたい」(東京製鉄)としている。