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 物質・材料研究機構(NIMS)と大阪大学大学院工学研究科の研究チームは、レーザー方式の3Dプリンターを利用してニッケル(Ni)粉末から単結晶体を造形する技術を開発した(図1)。同技術の応用によって、航空機エンジンやガスタービンなどに向けた耐熱材料への単結晶材料の適用が広がると期待できる。

図1 造形の様子(左)と造形体の外観(右)
図1 造形の様子(左)と造形体の外観(右)
(出所:物質・材料研究機構、大阪大学大学院)
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* 物質・材料研究機構(NIMS)と大阪大学大学院工学研究科のニュースリリース: https://www.nims.go.jp/news/press/2022/06/202206220.html

 研究チームは、直径が大きく照射面強度分布が均一なレーザービーム(以下、フラットトップレーザー)を純Niの粉末床に照射しながら、造形条件を最適化して、粉末が溶融する際に形成される溶融池の形状を平面状に制御した(図2)。これにより、溶融したNiが凝固するときに結晶はフラットな固液界面からビームの照射方向とほぼ平行に成長する(図3)。造形中に前の層で凝固した結晶が種結晶のような役割を果たし、成長方向に優先的な方位を持つ結晶が選択されながら徐々に成長していくという。

図2 正規分布のレーザー(左)とフラットトップレーザー(右)による溶融池形状と組織形成の違い
図2 正規分布のレーザー(左)とフラットトップレーザー(右)による溶融池形状と組織形成の違い
(出所:物質・材料研究機構、大阪大学大学院)
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図3 正規分布のレーザー(左)とフラットトップレーザー(右)による造形体の結晶方位分布の違い
図3 正規分布のレーザー(左)とフラットトップレーザー(右)による造形体の結晶方位分布の違い
(出所:物質・材料研究機構、大阪大学大学院)
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 通常のレーザーは照射面強度が正規分布となるが、これを粉末床に照射すると、固液界面が溶融池側に凸になり、凝固時に成長する結晶が中央でぶつかる。すると、中央部に結晶粒界が形成されると同時に、冷却時に界面付近で熱収縮ひずみが生じる。結果として、ひずみに起因する結晶欠陥が発生し、得られる結晶は異なる向きの結晶から成る多結晶となってしまう。加えて、従来のレーザー方式の造形装置は、高価な種結晶を用意しなければならないのも課題とされていた。

 それに比べてフラットトップレーザーは、熱収縮ひずみを抑えられる。成長する結晶の方位がそろうことで、結晶粒界や、ひずみが原因となって生じる線状・面状の欠陥密度を低く抑制できるため、単結晶を得られる。研究チームが造形した単結晶の形状は円柱で、寸法は直径12mm×高さ30mm。破壊の起点となる結晶粒界がなく、高温強度に優れるという。

 研究チームによると、電子ビーム方式で単結晶を造形する技術は既にあるが、装置が高価な上、高真空が必要で運転コストも高いため普及していない。一方、電子ビーム方式の装置よりも安価なレーザー方式の装置を使う場合は、前述のような課題があった。研究チームは、フラットトップレーザーを用いることで課題の解決を図った。

 研究チームは今後、レーザー照射による単結晶造形技術をNi基合金に展開し、単結晶造形材の開発を加速させる。従来はレーザー方式の造形で凝固時に割れを起こしていた、合金組成への適用も期待できるという。特に、航空機エンジンやガスタービンは部品形状の複雑化・軽量化が進んでおり、耐熱材料であるNi基合金を積層造形する需要が増えている。多結晶より高温強度に優れる単結晶の造形体を、安価で普及率が高いレーザー方式で造形できるようになれば、世界的に研究・開発が加速すると研究チームは見ている。

 今回の研究の一部は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」の一環として実施された。研究チームには、NIMSジュニア研究員で九州大学大学院生のJodi Dennis Edgard(ジョディ デニス エドガード)氏、NIMS構造材料研究拠点 接合・造型分野 積層スマート材料グループ主幹研究員で九州大学大学院准教授の北嶋具教氏、NIMS構造材料研究拠点 接合・造型分野分野長の渡邊誠氏、大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻教授の中野貴由氏、同教授の小泉雄一郎氏が参加している。