名古屋工業大学と東京都立産業技術研究センターの研究グループはアディティブ製造装置(3Dプリンター)向けに、従来のステンレス鋼粉末より小さなエネルギーで高速造形できる金属粉末を開発した(図1)。ステンレス鋼粉末に凝固の“足場”となる粒子を添加して、組織の微細化と欠陥の低減を実現する。骨接合材などの医療分野への応用が期待される。

図1 新開発の混合粉末を用いて造形した名古屋工業大学の学章メダル
図1 新開発の混合粉末を用いて造形した名古屋工業大学の学章メダル
SUS316LにSrOを添加した粉末を材料として、3Dプリンターで造形した。(出所:名古屋工業大学、東京都立産業技術研究センター)
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* 名古屋工業大学と東京都立産業技術研究センターのニュースリリース: https://www.nitech.ac.jp/news/press/2022/9791.html

 研究グループは、鋳造工学や溶接工学で用いられる「異質核生成理論」(ヘテロ凝固理論)を3Dプリンティングの手法に応用し、新たな金属粉末材料を開発した。異質核生成とは、液体が凝固する際に、液体中の微細な固体粒子(ヘテロ凝固核)を足場にして凝固が起こる現象。新開発の材料は、ヘテロ凝固核となる粒子を母材の粉末に添加した混合粉末で、3Dプリンターで造形した際に均一な凝固が可能になるという。

 具体的には、ステンレス鋼SUS316L(クロム17~19質量%、ニッケル13~15質量%、モリブデン2.25~3質量%を含有)を母材とした。ヘテロ凝固核としては、母材より融点が高く、かつ母材の初晶となる相に対して原子配列の整合性の良いものが向く。研究グループは今回、SUS316Lのヘテロ凝固核として酸化ストロンチウム(SrO)が適していることを見いだした。

 混合粉末を3Dプリンターで造形すると、凝固が均一に発生するため内部欠陥の発生を抑えられ、密度の高い造形物が得られる。混合粉末とSUS316L単体について、造形に要するエネルギー密度と、造形物の相対密度(アルキメデス法)の相関を調べたところ、混合粉末はエネルギー密度を下げても相対密度が低下しにくいことが分かった(図2)。組織の比較では、混合粉末の造形物ではSUS316L比で微細化していることも確認できた。

図2 造形時のエネルギー密度と相対密度
図2 造形時のエネルギー密度と相対密度
相対密度に及ぼすエネルギー密度の影響を調べた。赤色が開発した混合粉末で、青色がSUS316L単体。グラフ内の2つの組織は、エネルギー密度79.4J/mm3の条件で造形したもので、左がSUS316Lの、右が混合粉末のもの。(出所:名古屋工業大学、東京都立産業技術研究センター)
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高速造形でも密度の低下を抑制

 混合粉末とSUS316L粉末を異なる造形速度(スキャン速度)で比べると、混合粉末は高速で造形しても相対密度の低下が少なかった(図3)。造形速度が200mm/秒のときの引っ張り強さは、混合粉末の造形物が599MPa、SUS316Lの造形物が576MPa。同600mm/秒のときはそれぞれ605MPaと551MPaで、混合粉末のほうが強度が高かった。SUS316Lの造形物のビッカース硬さは、スキャン速度を速くすると下がる傾向にある一方、混合粉末の造形物のビッカース硬さはスキャン速度にあまり依存しないことも明らかになったという。

図3 スキャン速度による相対密度の変化
図3 スキャン速度による相対密度の変化
異なるスキャン速度で造形し、造形物の相対密度を比較した。赤色が混合粉末の造形物で、青色がSUS316L。右のX線CT画像は、スキャン速度600mm/秒の条件で造形した試料の欠陥評価。(出所:名古屋工業大学、東京都立産業技術研究センター)
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 研究グループによると、金属の3Dプリンティングでは、耐食性が高いなどの理由でステンレス鋼に対するニーズが高まっている。しかし、溶融・凝固過程において粉末の溶け残りや冷却時の体積収縮による空孔が生じやすいという難点がある。加えて、鋳造組織に似た柱状の不均一組織が形成されて、強度が低下したり力学特性に異方性が生じたりする課題もあったという。

 そこで研究グループは、ステンレス鋼粉末にヘテロ凝固核を加えて造形する手法を考案し、これらの課題の解決を図った。SUS316Lは通常のステンレス鋼に比べて耐食性が高く、骨接合材や脊髄固定器具、人工関節、骨頭、ガイドワイヤなどに使われている。開発品は、食塩水中でSUS316Lと同等の耐食性を示すことから、上記をはじめとする医療分野への展開も可能だとする。

 今後は、他のステンレス鋼や合金系についてもヘテロ凝固核粒子の調査を実施。併せて、添加する粒子の形状や大きさ、添加量を最適化し、性能向上を図る。今回の研究は、名古屋工業大学大学院工学研究科教授の渡辺義見氏と同准教授の佐藤尚氏、東京都立産業技術研究センター事業化支援本部技術開発支援部3Dものづくりセクター研究員の大久保智氏らが共同で実施した。