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 子どもが勉強を頑張ってテストで高得点を取ったとき、親に褒められると子どもは「次も頑張ろう」と勉強の意欲が湧く。ネズミを入れた箱に、ボタンを押せば餌が出てくる装置を設置すると、ネズミはボタンを押して餌を得ることを覚える。

 このように、多くの動物はある行動に対して報酬を与えたときに、その行動に対する意欲が高まる場合がある。いわば「意欲スイッチ」がONになった状態だ。藤田医科大学の研究グループらは、こうした心理のときに脳でどのようなことが起こっているのかを分子レベルで解明した。

 報酬をもらったときに、脳では感情や意欲などを制御する神経伝達物質「ドーパミン」が分泌されることが既に知られている。本研究では、ドーパミンが脳の神経細胞にどのように作用しているのかを、マウスの脳を観察して調べた。

 その結果、意欲をつかさどる脳の領域である「側坐核(そくざかく)」において、ドーパミンによって誘発されたシグナル伝達分子の1つ「ERK」がカリウムチャネルを刺激して、報酬をもらうための行動(報酬行動)を促していることが分かった()。

 カリウムチャネルとは、カリウムイオンを選択的に通す門のようなもの。カリウムイオンの移動に伴って生じる微弱な電流によって、他の細胞との情報伝達などを担っている。ERKがカリウムチャネルと反応すると、同チャネルが負に活性されて(門が閉じて)神経細胞が興奮する。これが、意欲スイッチがONになった状態だ。

図 報酬行動を促進させる神経細胞の興奮メカニズム
図 報酬行動を促進させる神経細胞の興奮メカニズム
(出所:藤田医科大学)
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 うつ病の主な治療法である抗うつ薬の持続的投与は、治療抵抗性や断薬後の再発など多くの課題を抱える。本研究の結果は、意欲スイッチを薬物投与などによって制御できることを示唆する。将来的には、うつ病などの気分障害に対する治療薬の開発も期待できる。