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 順天堂大学発スタートアップのInnoJinと住友商事、VR(仮想現実)のアプリ開発などを手掛けるイマクリエイトは2022年9月29日、VRを活用した小児の弱視患者向けアプリの共同開発を始めたと発表した。今後臨床研究や治験などを実施し、InnoJinが2025年度中にプログラム医療機器として承認申請することを目指す。

研究用のVRアプリを実際に体験する様子
研究用のVRアプリを実際に体験する様子
片側の目に映るけん玉の映像が透明になるなど、左右の目で異なる内容を表示する。(撮影:日経クロステック)
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 弱視は視力が発達せずに眼鏡をかけても十分に見えにくい状態を指し、小児の約3%が罹患(りかん)するとされる。現在の治療は、視力が良い方の目を専用のパッチで覆い、弱視の目を強制的に使うことで視力発達を促す方法が主流だ。しかし、毎日数時間にわたり片目を覆うことを嫌がる小児が多く、途中で治療から離脱してしまう割合が高いという。また、医師が治療の実態を把握するのが難しいのも課題だった。

 今回開発するアプリは、VR上で左右の目に異なる映像を表示し、片目を覆う治療と同等の治療効果を得ることを目指す。VRアプリにゲームの要素を取り入れて、楽しみながら治療に参加してもらう。また、アプリの使用時間が分かるため、医師が治療実態を把握できるようになり、治療計画の立案などに生かせる。

 研究用の製品として、VRゴーグルを装着しながらけん玉で遊ぶアプリを開発した。視力が良い目にはけん玉を透明にして見えにくい映像を表示し、弱視の目を使うことを促す。「映像を見ながら同時に体を動かしてもらうことで、弱視の改善効果が向上することを期待している」と同日開催した説明会に登壇したInnoJin代表取締役で眼科医の猪俣武範氏は話した。見ながら体を動かすことで、脳の視覚野以外も同時に活性化させ、神経回路の構築を促せる可能性があるという。

 今後、小規模な患者集団を対象としたトライアルを経てVRアプリの内容について変更や調整を進める。住友商事はアプリ内容の検討やプロジェクトマネジメントなどに関わり、InnoJinやイマクリエイトと共同でVRアプリの開発を進める。「総合商社として初めて治療用アプリ開発に参入する」(住友商事メディカルサイエンス部製薬事業チームの九鬼嵩典氏)。住友商事はこれまで、同社のメディカルサイエンス部で遺伝子解析機器の販売などを手掛けており、デジタル治療分野では治療用アプリを手掛けるサスメドへの出資にとどまっていた。今後はデジタル治療分野の事業も広げる。