早稲田大学とhide kasuga 1896(東京・港、以下「HK」)、三井化学の3者は、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)製のギアを共同開発した。銅合金(CAC502)製ギアに比べて約89%軽く、低摩擦なのが特徴。CAC502製ギアに代えてロボットの指部に組み込んだところ、消費エネルギーを約3%低減できた(図1)。
UHMW-PEは平均分子量が1.0×106以上と高く、一般的なエンジニアリングプラスチックに比べて摺動(しゅうどう)特性・耐摩耗性・衝撃強度、耐薬品性に優れる(図2)。研究グループは、ロボットの消費エネルギーを低減するにはロボットを軽くするだけでなく、駆動部の摩擦によるエネルギー消費を抑える必要があると考え、UHMW-PEに着目した。

研究では、三井化学のUHMW-PE「HI-ZEX MILLION(ハイゼックスミリオン)」(密度0.93g/cm3)と「LUBMER(リュブマー)」(同0.97g/cm3)でウォームギアを製作した(図3)。粉末状のHI-ZEX MILLIONは溶融粘度が高く、射出成形や押出成形が難しいため、ブロック材を切削加工してギアに成形した。一方のLUBMERは射出成形や押出成形が可能だが、HI-ZEX MILLIONと条件をそろえるために切削加工でギアを製作。同一のウォームと組み合わせてロボットの指部に組み込んだ。
ロボットの関節を動かした際の消費エネルギーを比較したところ、HI-ZEX MILLION製ギアとCAC502製ギアには大きな差は認められなかった。一方のLUBMER製ギアは、CAC502製ギア比で約3%、消費エネルギーが小さかった。LUBMERは、UHMW-PEの中でも特に摺動特性・耐摩耗性が高く、ギアに加工すればCAC502製ギア比で約89%軽量化できる。加えて、LUBMERは自己潤滑性を持つのでオイルレス駆動が可能。低摩擦のため騒音も抑えられる。
今後は、指部より大きな負荷のかかる部位への適用を目指して技術開発に取り組むという。高負荷・高速での消費エネルギー低減効果を検証する他、オイルレス駆動の実用性や騒音低減の検証も進めていく。
今回の研究は、早稲田大学理工学術院総合研究所 次席研究員の大谷拓也氏や同院教授の高西淳夫氏らの研究グループと、HK、三井化学の産学連携プロジェクトによるもの。HKは2022年12月16日、「gallery de kasuga」(東京・渋谷)で研究成果の展示イベントを開催する。