「月への商業的な輸送ミッションとして世界初の打ち上げに成功した。最初に月面に着陸できる機会があれば、それを目指していく」

 民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を手掛けるスタートアップ、ispace(東京・中央)の月面無人着陸船(ランダー)が月へ向けて旅立った。2022年12月11日16時38分(日本時間)、着陸船を搭載した米SpaceX(スペースX)のロケット「Falcon(ファルコン)9」が、米国フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられた(図1)。

 着陸船は打ち上げから約46分後にロケットから分離され、月に向かう軌道に入った。さらに東京・日本橋にあるミッションコントロールセンター(管制室)との安定した通信の確立を確認したという。月への着陸は2023年4月末を目指しており、成功すれば民間で世界初となる可能性がある。

図1 月面無人着陸船を搭載したロケット打ち上げの様子
図1 月面無人着陸船を搭載したロケット打ち上げの様子
月面無人着陸船を搭載したスペースXのロケット「Falcon9」がフロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられた。打ち上げは当初、11月中旬を予定していたが、天候不良やロケットの追加点検が重なり、4回延期されていた(写真:ispace)
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 同社代表取締役CEO(最高経営責任者)の袴田武史氏は、同日夜に開催したオンライン記者会見で、冒頭のように抱負を述べた。ただし、米国のスタートアップも近々、同様のミッションを開始する予定で「他社の状況を見ると2023年初頭に打ち上げ、それが成功すれば似たようなタイミングでの着陸になりそうだ。我々は、必ずしも1番になることだけを目指しているわけではなく、先頭グループにいて新しい産業を切り開いていくことが大事だ」(同氏)と語った。

 ispaceは2025年までに、3回の月面着陸ミッションを計画している。今回のミッション1では打ち上げから着陸までの間に10段階のマイルストーンを設定しており、それぞれに対して成功基準を設けている(図2)。「我々が各マイルストーンから学べることが多くあり、それを次のミッションに生かしていくことが重要だ。これによって継続的に成熟性の高いミッションを世の中に提供できる」(袴田氏)。

図2 ミッション1で設定した10個のマイルストーン
図2 ミッション1で設定した10個のマイルストーン
今回の打ち上げおよびロケットからの分離完了で、「Success2」を達成している(出所:ispace)
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 同社は、今回の打ち上げおよびロケットからの分離完了によって、マイルストーンの第2段階である「Success2」を達成したとしている。つまり、開発した着陸船の構造が打ち上げ時の過酷な条件に耐えられることを証明し、設計の妥当性を確認したという(図3)。同社CTO(最高技術責任者)ランダーシステムエンジニアリンググループ マネージャーの氏家亮氏は、「(安定した航行状態の確立を意味する)Success3を完了したとはまだ言えないが、着陸船のバス部、つまり通信、姿勢、電力は安定している。顧客のペイロードに不備がないかどうかはこれから確認する」と話した。

図3 ミッション1の月面無人着陸船
図3 ミッション1の月面無人着陸船
幅約2.6m、高さ約2.3m。質量は燃料非搭載時で約340kg。政府系宇宙機関がこれまでに開発してきたランダーと比較すると、大幅に小型軽量である(出所:ispace)
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 ちなみに、ミッション1でのペイロードは、日本特殊陶業の固体電池、UAE(アラブ首長国連邦)ドバイの政府宇宙機関であるMohammed Bin Rashid Space Centre(MBRSC)の月面探査ローバー「Rashid」、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の変形型月面ロボット、カナダMission Control Space Services(MCSS)のAI(人工知能)搭載フライトコンピューターなどである。