JAXA(宇宙航空研究開発機構)と小型SAR(合成開口レーダー)衛星を開発・運用するQPS研究所(福岡市)は共同で、取得した地球観測データを軌道上で処理してサービス提供を迅速化する「オンボードコンピューティング(OBC)」の技術実証を行う。JAXAの「小型技術刷新衛星研究開発プログラムの新たな宇宙利用サービスの実現に向けた2024年度軌道上実証に係る共同研究提案要請」において、QPS研究所の提案が採択されたことを受けて、両者が2022年12月16日に発表した。
一般にSAR衛星が取得するデータ量は膨大で、それを地上に下してからデータ解析をするまでの時間がかかることがかねて問題になっていた。軌道上でエッジ処理することで、衛星からのダウンリンクデータ量の大幅な圧縮が可能となり、即応性の高い観測ニーズに応えられるようになることが期待される。
両者による共同研究では、JAXAが研究開発を進めているソフトウエアプラットフォームを搭載したオンボードコンピューターを、QPS研究所が製造する最大200kgの小型SAR衛星「QPS-SAR」に搭載して軌道上での技術実証を行う。さらに同技術を活用した新たなサービス構想を協力して実証する計画だ。
具体的には、QPS-SARが取得した観測データを衛星に標準搭載する「軌道上画像化装置(FLIP)」によって軌道上で画像化し、オンボードコンピューターに搭載したAI(人工知能)機能を使用して、検出・推論結果をいかに迅速にユーザーに提供できるかを実証する。QPS-SARはLバンド衛星間通信用の端末を標準搭載しているため、情報が絞られた検出・推論結果をLバンドを使って、地上局の非可視領域であっても地上に伝送できるという。さらに、処理結果として得られる検出・推論結果を活用し、次の観測に適切な観測衛星を選定してその衛星に計画を送信するまでの流れを、自律的かつ迅速に行うことができるかも実証するとしている。
ちなみに、SARデータを軌道上で画像化する装置であるFLIPは、JAXAとアルウェットテクノロジー(東京・三鷹)が共同開発した。
QPS研究所は現在、QPS-SARを2機運用している。2025年以降を目標に36機の小型SAR衛星コンステレーションを構築し、地球のほぼどこでも任意の場所を平均10分間隔という準リアルタイムの地上観測データサービスの提供を目指している。2022年10月に3号機と4号機の打ち上げは失敗したが、5号機を2023年初頭、6号機を2023年6月以降に打ち上げると2022年12月15日に発表している(図1)。6号機はスペースXのロケット「Falcon9」で打ち上げられる予定である。