東京大学生産技術研究所の砂田祐輔教授、小林由尚大学院生らの研究グループは、化学結合を利用して水素を運ぶ新手法を開発した。ゲルマニウム水素化物を水素キャリア*、独自開発した鉄化合物を触媒として使う。常温に近い条件下で水素を生成・貯蔵できる。クリーンな次世代エネルギーとして期待される水素の活用を後押しする。
水素をクリーンエネルギーとして活用するためには、大量の水素を安全、安価、高効率に運ぶ技術が重要だ。水素は気体のままでは非常にかさばるため、貯蔵や運搬時は水素キャリアに変換し、利用時に水素へ戻す方策が考えられている。その中で、化学結合を利用して水素を運ぶ技術が注目を集めている。ただし、従来手法は高温・高圧が必要だったり、貴金属化合物を触媒として使ったりするなど、エネルギー、安全性、コストなどの面で課題があった。
研究グループは、これまでにケイ素やゲルマニウム、スズなど14族元素の化合物を活用した触媒反応を研究してきた。そこで、14族元素水素化物を水素キャリアとして活用する研究を行った。まずは、ゲルマニウム水素化物の一種であるPh2GeH2(Ph = C6H5)を水素キャリアとし、貴金属フリーで水素を発生させるべく、鉄化合物の触媒を開発した。同触媒を使うと、常温下でPh2GeH2から水素ガスを発生させられる。他のゲルマニウム水素化物や、ケイ素もしくはスズ水素化物からも、同じ触媒を使うと水素生成が可能だ。
加えて、水素を手放した水素キャリアに対して再び水素を付加することにも成功した。同様の鉄化合物の触媒を使うと、1気圧の水素圧下、0℃という条件で水素を貯蔵できる。今後はより多くの水素を生成・貯蔵できる水素キャリアや、低コストな水素キャリアを開発する予定だ。