富士通は2023年1月23日、同社が開発する量子コンピューターのシミュレーター(量子シミュレーター)を使い、RSA暗号の安全性を評価する実験を実施したと発表した。その結果、当面の量子コンピューターの技術ではRSAの解読はまだ困難だということが分かった。
RSAは公開鍵暗号方式の1つ。過去には広く使われていたが、現在は公開鍵暗号方式としては楕円曲線暗号が主流になっている。RSAは、現行方式のコンピューターでは桁数が大きい合成数の素因数分解問題を短時間で解くのが困難であることを安全性の根拠としている。一方、量子コンピューターでは、「ショアのアルゴリズム」を利用することで理論的には高速に素因数分解できることが知られている。このため、実用的な量子コンピューターが登場するとRSAの安全性が大きく損なわれると懸念されていた。
同社は安全性評価の実験を2023年1月に実施した。実験には2022年9月に開発した39量子ビットの量子シミュレーターを利用した。入力した合成数を素因数分解する量子回路を生成するプログラムをショアのアルゴリズムで実装。量子シミュレーター上で素因数分解の実験を行った。
2048ビット合成数の素因数分解に必要な量子回路の計算リソースを見積もった結果、約1万量子ビットに加え、ゲート数が約2兆2300億、量子計算を行うために必要なステップ数が約1兆8000億の量子回路が必要なことが判明した。試算すると約104日の間、量子ビットを誤りなく保持する必要があった。これほど大規模で長期間安定稼働する量子コンピューターは、短期間では実現困難であり、現在の技術ではショアのアルゴリズムによるRSAの解読はまだ難しいことが分かった。富士通は今後も継続的に、量子コンピューターの活用における暗号の安全性を調査するとしている。