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 稲葉延雄氏が2023年1月25日にNHKの会長に就任、同日に就任会見を行った。稲葉新会長は、「私の役割は改革の検証と発展」と述べ、デジタル技術を活用した番組の質・量の拡充などを「経営改革の第2弾、本丸として探りたい」とした。

NHKの稲葉延雄新会長
NHKの稲葉延雄新会長
(写真:NHK)
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 稲葉会長は、前田晃伸前会長が取り組んできた改革について、「業務の効率化を大胆に進めることで、受信料値下げに伴う収入の減少を収支均衡に持っていく道筋について、おおむねめどをつけていただいたと理解している」とした。その上で、「この先、想定通りに財務の係数や数字が現れてくるかを見極めながら、今年秋の受信料の値下げを実現していきたい」とした。

 その上で、「私の役割は改革の検証と発展だ」と述べた。「実際、かなり大胆な改革なので若干のほころびやマイナス面が生じているかもしれない。もしそうであれば、丁寧に手当てをしながらベストな姿に持っていきたい」とし、「特に人材活用の見地から重要な人事制度改革は私の目から見て検証・見直しを行いたい」「一人ひとりが能力を最大限発揮してもらうために多様なキャリアパスを示し、安心して職務に専念できるような温かみのある人事制度にしたい」とした。

 加えて「収支の均衡が表面的に実現したとしても、それによってコンテンツの質や量が落ち込むことがあっては本末転倒。デジタル技術を活用するなどして質量ともに豊富に提供していく。これがやり残した部分であり、経営改革の第2弾、本丸として探っていきたい」と今後の経営の方向性を示した。デジタル技術の活用例として「メタバース技術による新しい表現の探求」や「デジタルアーカイブのさらなる事業展開」を挙げた。さらに、「番組の制作から発信までの生産プロセスをデジタル的に抜本改革することなどを進めていきたい」とした。

 最後に、「日々の報道面では、真実の探求のため時間をかけてもしっかり取材し、NHKらしい真摯な姿勢で公正公平で確かな情報を間断なくお届けしたい。多様な情報が錯綜(さくそう)している中で、皆様の日々の判断のよりどころになりたい。エンターテインメントの制作面では、様々な新しい試みに挑戦しながら世界に通ずる質の高い番組を提供するよう心がける。皆様の日常がより豊かで文化的なものになるよう精いっぱい努力したい。これらの点を改めて皆様にお約束したい」と述べた。

 会見に出席した記者からの質問に答える形で、検証の方法や時期について稲葉会長は、「今の経営計画が2023年度までで、次期経営計画を策定する作業を2023年度に入ったら始める必要がある。改革を実施してきた中で、どの部分が足りないのか、どの部分がゆがんでいるのかの点検作業をした上で、計画の策定作業に入ると思うので、その前に検証を行う必要がある。できるだけ早くチェックを行い、残課題を新しい経営計画の中に盛り込みながら解決していきたい」とした。

 稲葉会長自身が考える質の高い番組とはという質問に対しては、「私はある種の数値などでは示し得ないことだと思う。視聴者の方々の意見などを伺いながら、実感として生活の面で番組を見たら豊かな気持ちになったとか、新しい事実を知ることができたとか、より文化的な生活になったといった実感を持ってもらえるような番組作りに励みたい」と述べた。

 インターネット活用業務については、「現在の放送法では、NHKのインターネット活用業務は放送の補完という位置付けになっており、実際にそういう位置付けのもとで業務が行われていると承知している。一方で放送と通信の融合が進んでおり、総務省の有識者会議などで突っ込んだ議論をしていただき、そこでの結論に従っていきたい」とした。また、有識者会議などに対して「NHKが目指す近い将来像を示す考えはないのか」という質問に対し、「ここはなかなか難しいところ。NHKがそういうことを言い出して議論が混乱することもある。利用の実態を細かく報告する、あるいは議論に役立つことについて引き続きNHKの見解を述べるとは行っていきたいと思う。有識者会議の議論を通じて、具体化していくということがいいのではないか」と述べた。

 割増金については、「受信料負担の公平性を確保するという見地から導入されたと思っている。この制度が導入されても受信契約の締結や支払いについて、NHKの活動の様子や受信料制度の意義をしっかり理解し納得してもらった上で手続きして支払っていただくというNHKの方針に全く変わりはない。また、割増金は条件に該当するからといって一律に請求するのではなく、個別の事情を総合的に勘案しながら運用していくという姿勢にあると聞いている」と述べた。