独立系調査会社の英Opensignalは2023年1月30日(現地時間)、日本における携帯電話向け衛星通信サービスの必要性について調査した結果を発表した。今後、日本でもスマートフォンでの衛星接続機能が導入される可能性が高いものの、緊急通信以外の双方向メッセージや定期的なインターネット接続などへのサービス拡張については、強力なモバイルネットワークを持つ市場であるがゆえに不確実だとしている。
関連リポート: Quantifying the satellite smartphone opportunity in Japan2022年9月、米Apple(アップル)が衛星を介した緊急メッセージ機能を持つ「iPhone 14」の販売を開始した。北米から始まった衛星経由の緊急SOSサービスはその後、欧州4カ国に拡大している。今後、iPhoneの強力な市場である日本でも始まる可能性は高い。
ほかにも、英国のスマートフォンメーカーBullittと台湾MediaTek、中国Huawei(ファーウェイ) と中国Beiduといった組み合わせによる衛星通信サービスも開始される。また、米Qualcomm(クアルコム)は、同社の「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載するスマートフォンで、2023年後半にイリジウム(Iridium)衛星接続を使用した双方向メッセージを可能にすると発表している。ただし、当初は北米または欧州で販売されるモデルのみが対象となる。
日本でも、大手通信事業者4社が既に衛星通信を手掛ける企業と提携している。例えば楽天グループは、米AST SpaceMobileとのスマートフォン衛星接続テスト用ライセンスを取得した。ソフトバンクは米Skylo Technologiesとの協業を発表しているが、スマートフォンではなくIoT(Internet of Things)関連のプロジェクトに関するものとなる。このほかソフトバンクは英OneWebとの衛星通信サービス展開に関する契約も結んでいる。KDDIは米Starlinkと連携し、当初は基地局の衛星バックホール向けではあるが、ネットワーク強化を進めていく。NTTドコモは、Airbus(エアバス)およびSKY Perfect JSAT(スカパーJSAT)と共同で、衛星を利用した無線アクセスネットワーク(RAN)ソリューションの開発に取り組んでいる。
では日本でスマートフォンでの衛星通信サービスは急務ではないのか。Opensignalの分析では、日本でモバイルサービスが利用不可となる時間はわずか0.41%、世界で3番目に良い市場となっている。
ただし、日本国内でも、モバイル信号が到達しない時間が長い地域もある。北海道では、携帯電話が利用不可になる時間が0.7%、九州は0.6%、四国でも0.55%の時間で無信号となる。こうした時間に重要なビジネスの電話や緊急支援が必要になる場合を考えれば、衛星接続を持つことにも重要な価値がある。
携帯電話の電波が届かない地域は、山間部や人里離れた地域だけではない。都市部でも、建物が密集している場所では携帯電話の電波が遮断されることがある。相模原市の0.26%や川口市の0.18%に対し、東京都が0.52%と電波の届かない時間が長くなるのはこのためと考えられる。ただし、現在のスマートフォン向け衛星サービスでは、空がはっきり見える場所の確保が必要となり、接続にも数秒を要する。従って、建物が密集した場所では、衛星信号ではなく、Wi-Fi(無線LAN)接続、または建物内アンテナを使用したサービス充実の方がより優れた解決策となる。
いずれにせよ、日本の事業者も今後、スマートフォンでの衛星サービス導入を検討すべきだとOpensignalは指摘する。RANバックホールやIoTなど、既存の取り組みを拡大し、ネットワーク共有契約を締結することで、地方のモバイルネットワーク拡大や、ユーザーの課題解決を進めていくべきだとしている。