パナソニック(東京・港)は、水分子が形成するかご状の結晶構造の中にゲスト分子を取り込んだ物質「クラスレートハイドレート」(包接水和物)を使った融点約7℃の高密度蓄熱材料を開発した(図1。同程度の融点の蓄熱材としてはパラフィンを使ったものがあるが、新開発の材料は蓄熱密度が約200kJ/kgとパラフィンのそれ(150kJ/kg程度)に比べて3割ほど高い。

図1 クラスレートハイドレートの分子模型(左)と蓄熱モジュール(右)
図1 クラスレートハイドレートの分子模型(左)と蓄熱モジュール(右)
新開発した蓄熱材を「ENEX2023 第47回地球環境とエネルギーの調和展」(2023年2月1~3日、東京ビッグサイト)の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のブースに参考出展した。写真左の緑の球体がゲスト分子を表す。蓄熱モジュールはクラスレートハイドレートを含む蓄熱材をポリエチレン製のケースに充填したもの。(写真:NEDO)
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* 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の開発事業「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」(プロジェクト実施期間は2013~2022年度)の成果。

 通常、水に食塩などの溶質を添加すると水の融点が0℃よりも下がる(凝固点降下現象)。一方、クラスレートハイドレートではゲスト分子の種類によって融点が上昇する。新たな蓄熱材では、ゲスト分子に第4級アンモニウム塩を採用し、約1mol/L添加することで前述の物性を得た。

 この他、新たな蓄熱材は過冷却度の小ささも特徴だ。過冷却度とは、凝固開始温度と融解開始温度の差。物質が凝固する際は過冷却現象が起こる場合があるため、蓄熱材を凍らせるには融点よりも温度を下げる必要がある。従って、過冷却度が大きいと、その分冷却に余計なエネルギーを消費してしまう。

 そこで同社は、蓄熱材に銀ナノ粒子などの触媒を少量添加することで、過冷却度を2K以下に抑えた。「銀ナノ粒子が疑似核となり、水が結晶化しやすくなる」(同社エレクトリックワークス社ソリューション開発本部スマートエネルギーシステム開発部の鈴木基啓氏)という。なお、無添加の場合は過冷却度が10K以上あり、実用化に向けた課題の1つとなっていた。

 同社は、新たな蓄熱材の早期実用化を目指す。具体的には、新材料が固相から液相へ相変化する際の潜熱による吸熱反応を利用した蓄冷デバイスとしての利用を想定。チョコレートなどの冷却が必要な食品の製造プロセスにおいて冷熱のバックアップや電力ピークシフトといった活用方法を提案している(図2)。「エネルギーを電気でためる蓄電池と比べて、熱でためる蓄熱材は安価で導入しやすい。“蓄エネ”の選択肢の1つとして訴求したい」(鈴木氏)としている。

図2 蓄熱モジュールを導入した食品製造プロセスの模型
図2 蓄熱モジュールを導入した食品製造プロセスの模型
大きな水槽の水をチョコレートの製造プロセスの冷却工程で使うことをイメージしたもの。定常運転時(日中)は冷凍機で10℃前後の水温を維持して冷却に使い、夜間には水槽に入れた蓄熱材を凍らせるために水温を5℃程度まで下げるといった運用を想定する。停電時の冷熱のバックアップや電力のピークシフトに活用できる。(写真:NEDO)
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